第2話 『父と幽霊』
父から聞いた話。
父親が学生の頃体験した下宿先での話です。
下宿した部屋に押入れが2つあって、1つには古びた
大家さんから使って良いと言われたのですが、引っ越してきたばかりで荷物が無かったので、とりあえず箪笥はそのままにしておいたそうです。
一週間程は問題なく住んでいたらしいのですが、一週間が過ぎてから急に夜寝てると金縛りに合うように。
最初は部活をやっていたので、疲れてるのかな? と思っていたようですが、金縛りに合うのが決まって夜中の2時過ぎで、その時間になると何となく目が覚めてそのまま体が動かなくなるとの事。
大体30分ぐらいで解けるので、慣れない環境のせいもあるのだろうと、2-3日は気にしなかったようですが……。
4日目、父はまた金縛りに合いました。
『またか』と思っていたら、ふと足元の方から何かが這いずるような音が聞こえてきます。
ずるり……ずるり……。
明らかに畳みを何かが這いずっている音です。
父は一瞬『蛇か?!』と思いましたが、それにしては何か『嫌な気配』がしたそうです。
暫く這いずっていた『それ』は金縛りが解ける頃には気配が消えていました。
5日目、父はまた金縛りに合います。
それに伴ってやはり足元側で『何か』が這いずる音も。
父はかなり豪胆な方で、金縛りに合いながら『蛇だったらどこから来てるんだ?』等考えていたようです。
――ふと、自分の足に何かが当たります。
「!?」
冷たくて柔らかい『何か』が父の足を掴んだそうです。
『これは蛇じゃない!』と思った父は無我夢中で金縛りに抵抗しました。
『何か』の手が足首から段々と上に這い上がってきます。
手が膝の所まできた時に父は、口の中で『南無阿弥陀仏』と唱えました。
『南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……』
手が腰の所まで来たぐらいで、突然父の金縛りが解けました。
それから父は飛び起きて、腰まで来ていた『何か』に向かって思いっきり蹴りを入れたそうです。
ぐにゃぁっとした変な感触がして、『何か』はシュルシュルと後退して行きます。
父が見ていると、それは箪笥のあった押入れの方へと消えて行きました。
蹴った感触といい、やっぱり蛇だったのか? と父は思い、とりあえず押入れを開けました。
そこには箪笥がありましたが、その箪笥の一番下の引き出しが僅かに開いています。
父が引き出しを開けると……そこには狭い引き出しに綺麗に収まった女が居たそうです。
……もちろん、その引き出しには普通はどんな小柄な人でも収まる訳はありません。
私だとそこで卒倒しそうな話です。
幼い頃に父に聞いた話ですが、『作り話かー?』と途中まで思っていましたが、その後の父の言葉に……。
「俺は腹が立ったんで、『こらぁ!』って言ってそいつの腕を掴んで引っ張り出したんだよ。
そしたらそいつイカみたいに骨がなくて、腕掴んだら手がぐるんぐるんってなってな。
あれの気持ち悪い事と言ったら……」
心底嫌そうに言う父の説明がとても嘘を言ってるように見えなくて……『本当なんだな』と実感しました。
――しかし、幽霊を掴んで一喝するとか……そんな父が一番怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます