第12話 それはちょっとした罠
久利恵さんに呼びだれた場所は、いつものオフィスだ。行ってみたら、いつも通りに受付に彼女がいた。「総務」の方の姿はなかった。日曜日だから、当たり前かと納得し、彼女の方を振り向き、すぐに話を切り出した。
「こんなところに呼び出して、何か緊急事態ですか?」
彼女が急にオフィスまで欲しいと言われたので、急いでやってきた。別に走る理由もなかったが、彼女から呼び出されたのだから、そうはいかない。自分にとって、それだけ優先順位が先なのだ。
「気になります?」
はぐらかして、彼女が笑う。その表情を見れただけでも、今日の休日はもう十分のような気がした。平日に会うのとでは、やっぱり意味が全然違う。少しだけ自分が何かに勝った気がした。
「気になりますよ。だって、電話番号も教えてないのに、急に電話がかかってきたんですから。あれ、でも、どうやって調べたんですか?」
本当はオフィルに載っている名簿を見たことぐらい、容易に予想がつく。しかし、ここは相手の後ろめたさを利用させてもらうのが、攻めの一手だと思っているのでわざと聞いている。意地が悪い気がするけど、せっかくだし、相手の気持ちをはかるために利用させてもらう。
「あぁ、あれです。オフィスの名簿に電話番号が載っていたんで、そこから連絡しました。後藤さん、田中さんと順番に最初はかけようかと思ったんですけど、二人とも、自宅の電話番号っぽいので、止めました。次の方を見て、河野さんが携帯電話番号を名簿に載せていましたから、それなら大丈夫と思ってかけました。河野さんは繋がって良かったです」
彼女は朗らかに、淡々と語る。彼女の話を聞くに、今回のお誘いというか、用事について、自分は3番手の候補だったことがわかる。がっくりと項垂れるが、頼られたのが、うれしいので、今回はラッキィだと素直に思っておこう。後藤さんならいざ知らず、田中さんと彼女が二人っきりでオフィスにいたなんてことを後で知らされたら、気が落ち着かないだろう。
「あ、そうでしたか。でも、あんまり個人情報が載っている名簿をそういうことに利用するのは良くないと思いますよ。個人の連絡先はやっぱり本人の許可がないと、基本的にしてはいけないのが、こちらでのルールですから」
「そうですよね・・・・・・。それはわかっていたんですけど、どうしても頼みたいことがあったんです。ごめんなさい」
「いや、まぁ、わかりますけど・・・・・・。今回は黙っておきますので、今後は控えてください。あ、でも、僕の連絡先は記録してもらって大丈夫ですよ。どうせもう連絡もらいましたし。他の人には内緒にしておきますから」
「大丈夫です。ここからはプライベートな件になりますから」
「と、言うと」彼女の言葉の意味がわからず、首をかしげる。
「あたしの電話番号教えておきますね。これです。試しにかけてください」
渡されたメモには、携帯の電話番号と思える、数字の羅列が記載されていた。そのメモを手に取って、固まっていると、彼女は面白そうに笑っていた。
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