第10話 友好の集いの終わりは静かに

「でも、後藤さんがさきにいてくれたから、僕なんかは怖じ気つくことなく、あの世界に順応できましたよ。感謝してます」

 沈黙してしまった後藤さんに対して、感謝の言葉を口にする。言った後、田中さんも同調するように、「それは俺もです」と言った。

「うん、たしかに奥さんにはそろそろ本当のことを言いたいが、なんと説明すればいいかわからない。異世界に行って、魔物と陣頭指揮をとって戦ってます。そんなことを言って、誰が信じるんだ?うん、だから、その、説明だけがなぁ・・・・・・」

「それは僕もわかります。会社が倒産した話をしてから、再就職できたかどうか、実家から何度も連絡がきたので、仕事についてるよとは言いましたが、どんな仕事かは全然説明できませんでした」

「難しいなぁ」後藤さんがため息をついたあと、ビールのジョッキを持ち上げて、豪快に飲み始める。体格の通り、酒にはけっこう強いようだ。

「個人のプライベートの話は、これくらいしましょうよ」

 一人だけ、プライベートがオブラートに包まれている田中さんが言った。聞きたい気持ちはあるが、やっぱり遠慮しようと思う。なんだか田中さんは奥というか、裏事情が深い気がする。はまると足が抜けない匂いがする。

 そのあとの話は、あちらの世界の話になった。なぜ異世界に自分たちが呼ばれるようになったのか。簡単にいうと、呼び出された異世界は文明があまり進んでおらず、より高度な文明の知恵を持ったものを求めて、外の世界に目を向けたということらしい。その話は3人全員、あちらの世界の統治者である女王陛下に初めて謁見した際に聞いている。女王陛下の名前は、フィーネと言った。普段なかなかお目にかかれないが、白い髪をした、とても美しい女性だ。彼女を見ていると、言葉を発するのを忘れそうになる。

「あの人は綺麗だよな」田中さんはだらしない顔をしている。

「身分が違いますよ。あと世界が違います」

「わかってるよ」かなりムキになって言っている様子から考えると、少し本気になっている可能性がある。

「それより、作戦を考えて実行することが、今のところの主な仕事になっているが、一体なんで戦っているか、理解しているか?」

「後藤さんは知っているんですか?」

「いや、実は詳しくは知らないんだ。宰相どのには聞いてみたんだが、話してくれなかった。別の世界に来られた方には申し訳ありませんが、事情は話せません。仕事に専念してください、と言われた」

「冷たいですね。事情を教えてくれてもいいのに」

「そうだよな。ひょっとして、あんまり信用されていないのかも」

「それはありますね。なんせ部外者ですからね」

「わたしは一年ちかく働いてるんだが・・・・・・」

「でも、派遣ってそんなものですよね」

「これって、派遣なのか?」後藤さんが真面目な顔で話す。

「派遣じゃないですか?」田中さんは後藤さんの緊迫した様子に対して、特に思うところはないようだ。

「派遣社員なのか・・・・・・」後藤さんは、田中さんの一言にかなり衝撃を受けたようだ。後藤さんが神妙な面持ちになっている。

「そ、そろそろお開きにしましょうか?」

 空気に耐えかねたのと、時間がすっかり深夜帯になっていたので、親睦会を終了することを提案した。

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