第9話 親睦の夜がさらにさらに

「すみません、話の続きをお願いします」

「うん」うなずいて、後藤さんは話を続けた。

「妻と子供が2人いる。6歳と8歳になる。で、そこまでなら順風満帆な生活なんだ」

「それがどうして?」

「当時、プロジェクトのリーダをやっていてな。でも、それが結局失敗に終わったんだよ。予定外に経費がかさむ結果になった。おかげで、会社に赤字を背負わせることになった。その責任をとって、部署を異動させられた。そして、その部署が簡単に言うと、窓際族みたいなところだ」

「それって、あれですか?会社が解雇すると面倒だから、自己都合退職に持っていくための追い出し部屋とか言うやつ?」

「うん、そういうやつ。正式になんていうかは知らないけど」

 田中さんが言った単語は、テレビなんかでときどき見たことがある。雇用側の一方的な理由で解雇はなかなか難しいので、そういう方法で社員を退職に導く方法らしい。

「関わっていたプロジェクトって、どんなものだったんですか?言える範囲で教えてもらえませんか?」

 田中さんは後藤さんの話に興味があるらしく、話の続きを聞きたがっている。あんまり深く聞かない方がいいかなと思っていた僕とは、正反対の反応をこの話でしている。

「2年前くらいに発売されたゲーム機あるだろ?あれだよ。売れなかった方」

「え?」その言葉を聞いて、絶句する。田中さんも同じように驚いている。

 2年前くらいに発売されたゲーム機なら、記憶が新しいのでよく覚えている。たしか、同じ時期に2台のゲーム機が発表され、片方は有名どころのゲームメーカがついて、人気を博したが、もう片方はあまり注目を集めなかった。高性能を売りにした代わりに、値段がかなり高くなってしまい、客から敬遠されたのだ。ゲームメーカからも本体価格が高いと言われ、敬遠され、ヒットしたゲームも出せずに、けっこうな損害を出したと当時の雑誌などに載っていた。

「それ言ったら、会社名がわかりますよ」

「気が変わった。もういいやと思って」

「それならいいですけど・・・・・・で、結局辞めたということですか?」

「あぁ、まぁ、そうだな」

「奥さんには?」

「辞めたことは話した。ただ、あっちの世界の話はしていない。再就職が成功したって思っているよ」

「そうなんですか・・・・・・」

「そんなに暗くならなくても」

「でも、たしか、後藤さん、もう一年くらい、あの世界の住人として仕事してますよね?」

「うん、まぁ」

「このままでいいんですか?」

「うーん」後藤さんが黙ってしまい、少しの間、沈黙の時間が流れた。

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