第7話 親睦を重ねて、人々は語る
誰から語り始めたかは覚えていないが、過去の話をすることになった。料理もある程度揃い、ドリンクは何回おかわりしたかは覚えていない。たぶん、会計はそれほどひどいことになっていないといいが。払う身分では、今日はないが、他人の懐事情は一応気にしておく。
「ぜひとも、まえから聞きたかったんだが、君らはなんであの世界に来たわけ?」
正確にいうと、なぜ毎日のように別世界に行き、あのような戦闘の指揮をとるような仕事についたのか。正直言って、理由がわかっていないが、少なくてもこの場にいる3人については同様の状況だということがわかる。そして、そこに至るまでの話をゴードンさんは聞きたいらしい。
「俺は正直話したくないです。それは・・・・・・ダメですか?」
「強制はしたくない。だから、それは構わない」
「ありがとうございます!」ビールが入った器をゴードンさんの方に掲げたあと、一気に飲み干した。
「お、いい飲みっぷりだね。けっこう酒は強い方?」
「えぇ、まぁ」
2人が酒の飲みっぷりで意気投合したのち、視線がこちらに向く。
「コーツはどうなんだ?無理に話さなくてもいいが・・・・・・」
「別に僕は大丈夫ですよ。隠す理由もないですし」
これだと、ビルさんの理由がうしろめたいもののように扱われないか心配だが、なんとなくそんな人はあの世界に呼ばれない気がする。
「僕のきっかけは、会社が倒産したことでした。えぇと、システムを作る会社だったんですが、それが経営悪化で潰れたんですよ。そして、それを出勤した当日に言われて、いきなり無職ですよ。ハローワークとか行って、失業保険とかは申請しました。そのあと、求人を探すために、転職サイトとかに登録はしましたが、いかんせん貯金を全然してなくて。給料日まえだったんで、それがいきなり給料も払えないとなって、どうしようかと途方にくれていたところで、1件の変なメールが届いたんです」
話を聞いていて、心当たりがあるのか、二人とも顔を見合わせる。同じようなことが起きていたに違いない。
「それで?」話を続けるようにうながされ、うなずいて話を進める。
「それでですね。メールを開くと、ハローワークから話を伺いましたとか、そんな感じで本文が書かれていて、一度お会いできませんか、とメールに書かれていました。変なメールだなと思ったんですけど、生活がけっこう追い詰められていたんで、とりあえず会ってみようと思って、久利恵さんのところに行ったんです」
「そして、そのままあの世界に足を運ぶようになった?」
「そうですね。正直信じらない体験だったので、最新のゲーム機のテストプレイでも急にさせられるのかと思ったんですけど、彼女からは、異世界なんですけど、協力してもらえませんか、と軽く言われました」
「そんな感じでよく協力する気になったな」
「いや、その場で現金をもらえましたので。生活費」
「現金なやつだ」ゴードンさんは呆れた様子で言っていた。
「そうですね。次の職が見つかるまでならいいかと思ったんですが、もう3ヶ月ですか?あっという間ですね」
感慨深く語りながら、自分がなぜこんなことを続けているのか、よくわからなくなりつつある。
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