第2話 それはいつもの日常から

 電子音が聞こえる。朝6時半ごろにちょうど時間を設定していたはずだ。予定の時間になっただけなので、驚かないが、けたたましい音がすると、たまらない。本当にこの手の音はうるさい。そうなっているのが当然だと思うが、どうにも聞いているとイライラしてくる。そうならないとたぶん役目が果たせないから、仕方がないのだろうが。

「もうそんな時間か」

 呟いてから、体を起こす。ご機嫌になれそうにない音を鳴らす、目覚まし時計を止める。昨日の戦闘の結果は、予定通りにことが進んだので、昨晩はぐっすり眠れた。仕事がうまくいくと、寝るのも気が楽だ。やりがいとはこういうことを言う。

「不思議だな」

 一人暮らしの部屋に返事をする人はいないが、今の立ち位置が呆れるような状況なので、ぼやくというか、ときどきなにかを言いたくて、独りごとを言う。ずいぶん増えたと思う。

 以前の職から今の職に変わったのが、だいたい3ヶ月まえだったと思うが、生活はすっかり変わってしまった。怒涛のように日々が過ぎていったので、1年くらいはもう仕事をしている気分になっている。3ヶ月というと、せいぜいバイトが一人前になるくらいと言うのが常識だと思うが、それと同じ気持ちなのだろうか。だとしても、今している仕事はバイトなどというのでは、ちょっと割りが合わない気がする。それだけ大変な仕事だが、責任があるかというと、どうだろうか。そのあたりは判断にいつも困る。

 ベットから手を伸ばして、近くの机の上に置いている、預金通帳を取る。中身を確認する。ちょうど昨日、記帳したばかりだ。中を確認すると、昨日の日付できちんと約30万近くの金額が振り込まれている。これが労働の対価だとしたら、以前の職より全然多い。たいした対価と思えば、当然に思える。自分が行った仕事に対する評価と考えると、納得がいく報酬を貰っている。しかし、どうして今の仕事に雇われるようになったのか、未だに理由がわからない。

「あぁ、準備しないと・・・・・・」

 また独り言を話す。こんな癖は以前からあっただろうか。不安定な気持ちがきっとそうさせている。前の職でも、納期ギリギリになったりすると、よく独り言を言って、先輩とかに注意されたことがあった。今は生活そのものが不安定だ。厳密にいうと、収入面は問題ないのだ。仕事内容に不安な要素が多いのだ。

 自分の境遇をどう説明すればいいか、正直わからないが、とりあえず準備をする。出勤する時間は決まっている。適当でもいいんじゃないかと思うが、集合時間だけは律儀に決まっている。

 衣服を収納しているクローゼットを開けて、昨日から決めていた服装を頭の中で整理しながら、上着、下着、それぞれ取り出していく。ひと通り揃ったら、順番に着る。このあたりの段取りをいつも決めている。起きたばかりの時は、いつも頭があてにならないと思っているからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る