六月の紫陽花
読まない方の山羊
六月の紫陽花
いつもより早く目覚めたその朝
僕は窓から刺す朝日で梅雨が明けているのを知った。
それから直ぐに身支度を整えて家を出た。
近くの紫陽花園で、雨上がりの紫陽花を見たくなったからだ。
蒸発する雨の匂いを嗅ぎながら、アスファルトの温もりを感じながら歩く。
長く雨宿りをしていた鳥たちは、腹を空かして飛び回っているのだろうか。
ふと道端を見ると
群青の
なんだか楽しくなって、気付けば僕は駆けていた。六月の風は心地良い。
息を切らしながら紫陽花園に入ると、白い傘をさした老婆が紫陽花を見ているのに気が付いた。この人も一人で紫陽花を見ようとして来たのだろうか。
老婆はこちらに気が付くと目を細めて会釈をした。
僕も小さく挨拶を返してそれに習った。
園の紫陽花は美しい
花弁に水滴を滴らせている様は何とも言えない若々しさを見るものに与えていた。
僕は感動して、思わず老婆の方を向いた。
この感動を一緒に分かち合おうとしたのかもしれない。
しかし老婆はこちらの方など見向きもせずに、ぽつんと咲いた赤紫色の紫陽花をただ哀しげに見つめていた。
土壌にもよるだろうが、紫陽花は歳をとるとだんだん赤みを帯びていくらしい。
あの紫陽花はこの園ができる前からずっとあったのだろうか。
そして、この青い紫陽花たちも、皆いつかは青を失いこの色に染まるのだろうか。
その時、老婆が何を考えていたかは僕には分からなかった。
僕は老婆と赤い紫陽花から目を背けて
もう一度、青い紫陽花を凝視した。
来年は出せないかもしれないこの色を目に焼き付けておこう、そう思って。
六月の紫陽花 読まない方の山羊 @nanatuki1192
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