第24話 増幅する暗雷

 ゼク・レムレクスは今までよりも一層激しく暴れ周り、爆発寸前の火薬に近い状態だ。 結晶に蓄えられた電気に衰えは無い。雷電を幾度となく振り撒いても尚、枯渇する気配は見受けられない。

 

一体どんなカラクリをもって、無尽蔵の電気を生み出しているのか、思案と演算を行っているベルグレイアスの目に付いたものがある。


 『――シエル、あれを見てくれ』


 そう言ってベルグレイアスは断ち切られた電線をモニターにアップで映す。


 バチバチと音を鳴らしながら電気を放出するそれを見て、シエルは瞬時に理解する。


 「あれが原因!」


 『恐らくはその通り。この星には電気を送る為にあの装置が至る所に張り巡らせてある。あの装置から送られる電気を自分の物として吸収しているのなら、ゼク・レムレクスが底無しの放電を行っている事に対しての説明が付く』


 つまり、ゼク・レムレクスにとって今の状況は、食事が並べられれていて、飢えを覚えてもすぐさま腹を満たせる環境と等しいに違いない。電気を自在に操る生態を持つこの界獣にとって、地球と言う星は好き放題暴れまわるのにこの上なくうってつけの場所だったようだ。


 それを証明するように、ゼク・レムレクスの攻撃は更に過激な物になる。


 放たれた電撃は、まるで意志を宿しているかのごとく、正確無比にベルグレイアスに襲いかかって来る。


しかし、ベルグレイアスとていつまでも攻められ続けでは無い。殺到する雷撃を避け、空中へと舞い上がりゼク・レムレクスの頭上を取る。

 

 辛くも、ではあるがそれでも反撃に転じる絶好のチャンスを掴んだ。

 ゼク・レムレクス本体が見せた一瞬の虚を付いて光の刃を光波として飛ばす。


  隙を見て咄嗟に放った一撃だが、見事に命中。


 肩の結晶に光の刃を受けて、耳にこびり付く不快なノイズを辺りに撒き散らしながら、ゼク・レムレクスは悶える。

強く、険しい光を放っていた両肩の結晶は輝きを失いはじめている。


 「やった……の?」


 『いや、手応えはあったが、この程度で倒れるとは思えない』


 しばらく項垂れていたゼク・レムレクスだが、急に体勢を持ち直したかと思うと

 様子に異変が見受けられるようになった。


 輝きを失いかけていた結晶が、今までよりも尚強い光を発し、ゼク・レムレクスの全身をおびただしい電流が迸るようになる。

 しかし、暴れるわけでも無く、体に纏った電流を放出するわけでも無く、ただじっとしているだけだ。破壊衝動の赴くままに行動するゼク・レムレクスが、こうもノーアクションでいるとかえって不安を覚える。


 「様子がおかしい……?」


 『今までに確認した事の無い反応だ。注意してくれ』


 警戒を解く事無くゼク・レムレクスの様子を窺う。そう時間を空けることも無く新しい動きがあった。


 「ウ……ウェアアアアアアアアア!」


 ゼク・レムレクスがこれまでの壊れた機械のような声から一転、人の悲鳴に似た、身の毛もよだつ叫びを上げ始める。瞬間、その叫びに呼応するかのように周辺で爆発が起きる。


 「爆発!? でも引火する物は何も無かったのに……」


 『いや、何かに引火したわけでは無い。どうやら超高密度の電気エネルギーが発生し、それが爆発した結果の模様だ』


 「電気が爆発? そんな事がありえるの?」


 常識の範疇で考えるのなら、絶対にありえない。だが、今シエルとベルグレイアスの目前には常識を粉々に打ち砕いた、異常としか言えない生命体がいる。


 再びゼク・レムレクスが叫ぶと、また周辺に爆発が起きた。

 これで二度目、偶然や見間違いの類では無い。

 無尽蔵に電力を蓄える事が出来るこの環境が、ゼク・レムレクス自体にも影響を与え、その結果電気爆発を行えるようになったとでも言うのだろうか。


 今度はゼクレムレクスの体を巡っていた電流が斧の様な角を通して龍のように天へと昇り、雷の柱となってベルグレイアスの元へと降りそそがれる。

 超高密度の電流ではあるが、雨あられと降りそそそぐ電流よりは御し易い。ベルグレイアスは難なく避けてみせる。


 だが、地に打ち付けられた雷の柱は、地面へ着弾すると同時に爆発し、着弾地点には激しい電気が滞留している。

 まさしくそれは雷の氾濫。無尽蔵の電力をモノにした雷晶獣のみが持ちえる、歪で特異な超常の力。


 再び辺りを電気爆発が襲う。


 「爆発の予測は?」


 『現在解析中――』


 言い終わる前に、ベルグレイアスの鋼鉄の体を雷の爆発が襲う。


 不意の一撃をモロに受けてしまい、巨体と、それに違わぬ重量を誇るベルグレイアスですら鳥の羽も同然の勢いで吹き飛ばされる。


 「くっ……あっ……」


 爆発と、地面に強く打ち付けられた衝撃は、シエルにもそフィードバックされる。


 『負傷は?』


 「無事、ちょっと打っただけ。ベルは?」


 『装甲が少々やられた。しかし、戦闘に大きな支障は無い』


 強い衝撃ではあったが、ベルグレイアスの装甲はこの一撃で砕かれる程脆くは無い。無論、パートナーには、ヴァルジオンの名と誇りに賭けて傷を負わせる事などしない。


  ベルグレイスは起き上がり、体制を立て直す。

 ゼク・レムレクスはベルグレイアスの様子に気づく事無く、衝動のまま目に付くものを手当たりに次第に破壊している。

 何の見境も無く、ただひたすらに暴れまわる……その姿には最早、ひとかけらの理性すら見られない。


 

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