第21話 最後の決断

人気の無い夜の倉庫街。遥か遠くの宇宙から来た異星人達はそこにいる。

 

 「思ったより、やるな、『白銀の閃鋼』」


 やせぎすの男が余裕綽々と言った様子で呟く。

 

「何を悠長な! 最早我等に戦力は残されていない! このままでは万事は休するぞ!」

 

 やせぎすの男とは対照的に、体格の良い男の声には焦りを多分に含んでいる。


「果たしてそれはどうかな?」


「どう言う意味だ?」


「言葉通りの意味だ。まだ我等には対抗策が残されている」


 そう言ってやせぎすの男は懐から何かを取り出す。


「なんだそれは?」


「地球へ来る直前に入手した界獣だ。――出来うる限り外には出すべきではない、獰猛な界獣らしいがな」


しかし、やせぎすの男の瞳には、その禁を破って、この禍々しいカプセルを解放し、中に封じられた界獣を開け放す意志が宿されている。


 「おぉ! なればそれを使い『白銀の閃鋼』と相対するのだな!」


 「戦闘力は折り紙つきだそうだ。もっとも、それゆえに極めて気性が荒く、好戦的でもあるそうだが」


 「ガハハハ! 結構ではないか! 寧ろ、それくらいである方が頼もしいぞ!」


 呵呵大笑と笑う体格のよい男の声が、人気の無い虚空の夜空に響き渡る。その声にはもう、先程までの怒りは消えうせ、それどころか万事が上手くいくと言う確信をもった為の安心感に満ちている。


 「もう勝った気でいるのか? これは最後の手段だ。失敗すれば今度こそ後は無い」


 「何、気にする事は無い。それだけ注意を言い渡された界獣が、数多いる有象無象と同格のはずがあるまい」


「フッ、まぁ一理はあるか。この切り札の力、どれほどのものか、しかとこの双眸で見定めさせてもらうとしよう」


それだけ言って異星の者たちは闇の中にに姿をくらます。その姿を見咎めた者は、誰もいない。



□□□□□□□□□□□□□□□□□□



「だあぁぁぁやめろぉおおお! そこで風船を割るんじゃねぇ!」


 「ふふっ、甘いですね! っと」


休日の昼下がり、俺とシエルはゲームに興じている。


 昨日シエルがふぁみゅこんを買ってきたわけだが、一緒にいろんなソフトも買い込んでいて、中には2人で遊べるものも多数含まれていた。


で、早速シエルが協力プレイを申し出て来て、俺も時間を持て余しているし、リビングのテレビで一緒にやる流れになった。


 今俺達がやっているゲームは伝説的名作ソフト、バルーン・デュエルだ。


 何をトチ狂ったか、風船の浮力に物を言わせて空を飛ぶキャラクターを操作して、同じく風船で空を飛ぶ敵を倒していくアクションゲームだ。


 このゲームの特徴として、2人での協力プレイが出来るわけだが……何故か味方にも攻撃する事ができ、うっかり攻撃したり、協力と見せかけて裏切ったりなんて事が起こったりする。


 最初は友達同士で仲良くまったりプレイしていたのに、気が付いたら当初の目的を忘れて殺伐とした対人ゲーに変貌したり、挙句の果てにはリアルファイトに発展して、そのまま学校とかでも口を聞かなくなった、なんて事もあったらしい。

 このゲームが伝説と呼ばれる所以だ。


 実際、今俺達も殆ど対人ゲーとしてプレイしている。ステージの敵はあらかた倒して、残った敵はステージをクリアしないためにあえて生かしている。


 キャラクターの操作感だが、風船で空を飛ぶなんて無茶をしている分、劣悪だ。正直な所うごかしにくい。


 妙にかかる慣性の制御が難しいし、本来浮力など発生するはずの無い人の手をパタパタさせて飛んでいる為か、上昇ももっさりとしたもので思うようには行かないにも関わらず、シエルの操作には一分の隙も無い。精密かつ迅速な攻撃に加えて、不利な局面に対しては脱兎の如く。


昨日今日はじめたばっかの奴がするプレイングとはとても思えない。


 「上を取られた!」


 こっちがあたふたしている内に、シエルに上を取られる。


 戦闘とは、すべからく上を取ったものが有利になる。ましてや空での戦いとなればその法則はより顕著だ。狙いをつけた獲物をしとめようとする狩人のように、シエルの操作するキャラは俺のキャラ目がけて急降下する。


 「ちぃっ!」


 あと1寸、すんでの所だったが、なんとかシエルの猛襲を回避。


 「まだまだ甘いですね」


 先程と同じ感想を、シエルは澄ました顔で言ってのける。


 何が甘いのか、訊ねる暇も無くCPUの敵が、急襲してくる。


 気付いた時には後のなんとやら。回避行動も虚しく、俺の最後の希望は弾けて消えてしまった。


 「あぁああああああっ!? ちょっ! 今のナシ! 今のナシだからもう一回!」


 「またですか? もうこれで『今のナシ』は4度目ですよ?」


 「だって今のCPUに倒されただけじゃん! じゃあ無効試合だよ!」


 「ふふっ、まぁいいですよ? 何回挑んだとしても倒して差し上げますから」


 微笑と共に、シエルは応じる。その微笑は、自らが下される事は無いという絶対の確信を持つ強者のみが持ちえる、余裕と呼ばれるものに満ちている。


「上等だ! 今度はそんな事言えないようにしてやるからな! マジだからな!

謝ってももう許さないからな?」


 『シエル、界獣出現だ』


 「またかよ……あぁ、しょうがない。サクッと倒してサクッともどって来い」


 『そう上手くはいかないだろう』


 んん? なんでさ?


 『とにかく、速やかに討伐する必要がある』


 「了解。ミッションを開始します」


 そう応えると、シエルはベルと通信する時に使う端末を掲げる。すると霧の様な光がシエルの体を包み、ゆっくりと融ける様に消えて行く。

 光がなくなると、シエルの服装は、初めてあった時に着ていた例のスーツに変わっていた。ベランダに向かい、差し出されていたベルの手に乗り、シエルはベルのコクピットの中へと入って行った。

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