第18話 ご町内と言う戦場
シエルとベルが家にきて数日。もう2人(と言うか1人と1機?)のいる生活が普通になった頃に表面化した問題。
そう、全長20メートルを超えるベルと言う存在そのものがもたらす問題だ。
勿論、ベルがうざったいとか、そう言う話ではない。そう言う話ではないが。
例えば、人通りのはげしい往来で戦車同士がドンパチやってたら、そこを通ってる人はどう思うだろう?
ベルと界獣の戦いもすでにこの凛華町と言う町では日常になりつつある。
毎日のようにでっかいのが取っ組み合いだの、ビームとかの撃ち合いをしているんだ。流石にご町内の皆様方も不安を覚えるのは仕方ない。
幸い、とでも言うべきか、みんなベルが味方である事は理解している。だが、それとベル絡みの問題を見過ごすって言うのはやっぱ別問題。
界獣との戦闘を抜きにしても、巨大ロボットが歩けばちょっとした地震はおきるわ、空から降りた時の衝撃でオフィス街に並ぶビルの窓ガラスは片っ端から割れて行くわ、道路は地割れでもあったのか? って位派手に荒れるわ。
ベルが戦うには地球……いや、この町はあまりにも狭すぎる。
「と言うか、なんでここにばっか界獣くるんだよ!」
『それは恐らく、界獣を操る者がこの近くに潜伏しているからだろう』
「どう言う事?」
部屋の窓から、体育座りで待機しているベルに聞き返す。ベルの両手にはにはお隣さんの洗濯物を吊るしたロープが握られている。
超常的能力をもつロボが、よりにもよって洗濯干しとして扱われると言う光景は何ともいえない悲しみを抱いてしまうが……これでお隣さんの苦情もいくらかマシになったし仕方ない事……なのだろうきっと。そう納得しておこう。
『界獣は普段、手のひらに収まるくらいの大きさのカプセルに収容され、必要に応じて持ち主が手動で作動させる事により外へ出す事が出来る』
「つまり、この近くに私達が追っている犯罪者も潜伏している事になります」
話を聞いていたシエルが補足をしてくる。そう言うことだったのか。
「で、犯罪者はみつかりそう?」
「申し訳ありませんがまだ……私達が所属する組織と、連携はしているのですがこのあたりの何処かとしか……」
「そうか、そいつ等が殺人まがいの犯罪とかしなければいいんだが……」
「この近くで目立つ行いをすれば必ず私たちが気付くでしょうし、それは無いでしょう」
そうか? まぁ何事もなければそれで良いんだが。
しかし問題は、ベルのこれから……一体どうしたものか。
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ベルの身の置き場をどうするか考える事数日、全然いい案が浮かばず今に至る。
自室のベッドでゴロゴロしながら、今日もどうするかと思案中。
窓の外には相変わらず窮屈そうに体育座りをしているベルがいる。
「なんて言うか……俺の家の庭じゃやっぱ狭くて疲れたりする?」
『そんな事は無い。私に疲労の概念は無いし、こうして定位置を確保できるだけでも充分だ』
「そ、そう? なら良いんだけどね」
しかし、まいったな。今日もいい案が浮かばない。
とりあえず気晴らしにリモコンを手に取りテレビの電源をポチッとな。
何回かチャンネル変をしていると一つの番組に行き着いた。
「ハイパーマン……オメガ?」
ハイパーマン。言わずと知れた、半世紀にわたって続く国民的ヒーローの活躍する特撮番組だ。
最近は音沙汰が無かったけど新番組はじめてたのね。どうやら丁度今日が1話目の放送みたいだ。
都合よく番組がはじまってからそんなに 時間も経っていない感じだし、どんなもんか見てみるか。
テレビの中では無惨に崩壊した建物がならんだ街と、逃げ惑う人達。すでに怪獣の襲撃を受けている様子だ。
画面が切り替わって、今度は怪獣登場シーン。まるで古代の覇者・ティラノサウルスを彷彿とさせる大型の怪物が画面いっぱいに映し出される。1話目にしては中々強そうな見た目だ。
『なんだあの界獣は……!? データベース照合……該当界獣……無し……未知の存在だと!?』
酷く困惑した様子でベルが声を上げる。
『生態反応補足……不可能? 私のセンサーに反応しないだと!?』
「あの、ベルさん? これ界獣じゃなくて――」
『シエル! エマージェンシー・ランクSSSだ! 大至急合流の必要がある!』
「いや……だから落ちついて……」
『フィンフェ=ヴァルジオン・ベルグレイアスから司令本部へ! ランクSSSのエマージェンシー発生! 大至急救援を要請する!』
えっ、ちょ……ちょっとちょっとぉ!? なんか知らない内に物凄い大騒ぎになってるっぽいんだけどぉ!? なんで!? なんでぇ!?
そうこうしている内にテレビの中では新しい怪獣が出現。今度の怪獣はプテラノドンみたいな見た目をしていて、大空を自在に飛び交いながら、目からビームを出して町を破壊していく。
『未確認界獣がもう一体だと!? 司令本部! 状況に更なる変化有り! 増援の速やかな派遣を要請する!』
「ちがあぁぁぁぁう! 違う違う違う! 違うから! 良くわかんないけど速やかに派遣しちゃダメ! あれフィクションだから! 実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありませんから!」
だがしかし、ベルに俺の声が届いた様子は全く無く、今までに見たことない程狼狽している。
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「――と言うわけですよ。あれはあくまでも作り物で、中に人が入って動いているの。界獣じゃないからセンサーにも反応しなくて当然なの、わかった?」
なんとかベルを落ち着かせる事ができた俺は、ベルが未確認界獣と呼んでいる者の正体を打ち明かす。
『……理解した。事情も知らずに錯乱してしまい申し訳ない……』
「まぁ、分かってくれたならそれでいいさ。と言うかそんな遠くまでセンサーは反応するもんなの?」
『地上に出ているのであれば、地球上のどこにいても界獣の正確な位置を捉える事が可能だ』
うーん……なんともスケールのでかい話しだ事で。改めてベルの力がこの世界の物差しでは測りきれないものってのを思い知らされる。
ひとまず、ベルが冷静さを取り戻した事にホッとした所で、ハイパーマンの新作を視聴を再開といこうか。
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