第16話 激昂の話


『――以上が今回の事件の顛末だ』


 シエルが俺の家を出てから、今に至るまでに起きた出来事を、ベルは全てシエルに打ち明けた。


 「……事情はわかりました。とは言え、まさかコタロー様がベルと同調できたなんて……」


 何が起きたか了解はできても、理解は仕切れてない様子のシエル。それほどまでに、俺がベルと同調できた事実は想像し難い事のようだ。


 「ところで、そちらの女性は昨日もお会いした……」


シエルが俺の後にいる女性――茉莉について訊ねてくる。


「九龍茉莉。まぁいわゆる腐れ縁ってやつさ」


「そうだったのですか。九龍さん、自己紹介が後れました。私はシエルと申します」


 恭しい挨拶と花のように明るい笑顔を見せるシエルに、茉莉も笑って挨拶を返す。


 「よろしくシエルさん。私の事は茉莉でいいわ」


 「ではそのように。茉莉さんも私の事は呼び捨てで呼んで貰って構いません」


 早速だが2人は打ち解けたみたいだ。仲良き事は美しい、良きかな良きかな。


 『ところでシエル。君が抱えている物は一体なんだ?』


 「え!? えっと……これは……」


 とんでもなく不審な挙動で、紙袋を体の後に隠しながら、シエルは曖昧な返事をする。

 だが、包み隠しを許さないと言う神の意思なのか、シエルが持っていた紙袋の底が破けて、中に入っていた物が無造作に地面へ落ちていく。


 「あー……これは……」


週刊誌に連載している漫画の単行本に、今話題のラノベ、他にもちょっと前にやってたアニメのブルーレイボックス等々紙袋が破けるのも納得できるだけの量、シエルの足元に散らばっていた。


「違うんです! これは、その……」


 果たして、何が違うのかはよくわかんないけど、シエルはしどろもどろになりながらも弁明をしようとする。


 『……シエル? それはこの星の娯楽品のはずだが……どうして君がそれを持っているんだ?』


 地面に散りばめられたグッズについて、ベルがシエルに問い掛ける。瞬間、俺は背筋にひやりとした物を感じた。何故なら、シエルを詰るベルの声が、今までの彼からは想像も出来ない程激しい怒りに染まっているのを感じたからだ。


 『まさか君は、地球の調査と言っておきながら、その娯楽品を入手するために外出したと言うのか!?』


 「それは……その……あの……」


 意味をなさない言葉を口にしながら、シエルは冷や汗ダラダラで震えている。


 『私は最初に言ったはずだ! 地球への滞在はあくまでも任務だと! だのに君は!』


  まるで油を注いで勢いを増した炎のように、ベルの怒りは激しく燃え盛る。


 それと対を成すように、シエルは恐怖と言う名の寒さで震え上がり、目尻に涙を溜めて絶句する。


 今の2人の様子は、子供を叱る親と、親に叱られる子供のそれと全く同じだ。感情の起伏に乏しく、淡々としていたベルが、烈火のような激情を発露させる。まったく想像だにしていなかった事態に、俺達は口を開けず、黙して見守る事しかできなかった。


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町の路地裏に二つの姿を認める事が出来る。


 「エディンムが倒された」


 不可思議な端末が映し出している立体映像の状況を、2人のうち体格のよい男性はそのまま口にする。その口調には哀悼も侮蔑も無く、ただなるべくしてなった現象をそのまま言っただけに過ぎない様子だ。


 「さもありなん。奴は我等が持つ宇宙界獣の中でも最下層の戦力。小手調べとして使えれば上出来と言った程度に過ぎん」


 もう一方、やせぎすの男性もまた、淡白に返事を返すだけだった。

 先兵として送った持ち駒の不甲斐なさを咎める事も、死を悼む事も無い。


「いずれにしても、我々の所在を奴等が掴むのは時間の問題だろう。そう遠くない内に『白き閃光』と全面衝突する事になるのは間違いない」


 やせぎすの男の言に、体格の良い男は首肯して答える。


 それから2人は無言のまま、路地裏の闇の奥深くへと向かって行った。


 その姿を見た者は、だれもいない。

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