第13話 錐角界獣の話

 まず目に付いたのは、頭部に生えているイッカクの牙のように鋭く長い、螺旋状の溝をもった立派な角。あの角が地面をコンクリートごと貫き、巨大な穴を形成したと見て間違いない


 4足の獣足は平たく、大きな爪を備えている。


 そして脅威としか言いようの無い体躯。民家をゆうに越えるその巨体は、こいつが地球の外からきた生物――界獣である事をこの上なく決定付けている。


『錐角界獣エディンム……どこからここに……』


  ――エディンム。それがこの怪物の名前か。


  「じ……じ……ぜ……じ……ぞ」


 鉄が軋む音のような鳴き声を上げながらエディンムは地上を暴れまわっている。


 『仕方ない。この場は応戦する』


 片膝付きの状態からベルは勢いよく二足立ちの体勢に移行する。


 同時に、物質の破壊音がすぐ近くで響く。壊れたのは俺ん家の屋根だ。ベルの肩に当たった俺の家の屋根が、発泡スチロールも同然に崩壊している。


 「ちょっ!? 屋根! 俺ん家の屋根が!」

 


 『済まない、後で対処をする。だが今はエディンムの掃討が先決だ』


 ベルがそう言うと、開いていたハッチはまた閉じて、鉄の壁は周囲の光景を映し出す。


 「えっ、俺らこのままなの!? 外に出るんじゃないの!?」


 『現状は一分一秒を争う緊急事態につき、すぐに行動を開始しなければならない。それに、私のコクピットの中ならば下手に逃げるよりはかえって安全だ』


 「いや! いくら安全って言ったって、ベルさんこれからあそこで暴れてる化け物と戦うんですよねぇ!?」


 『心配しないで欲しい。君たちに危険は及ばない。それは保証しよう』


 ほ、本当に大丈夫なのかなぁ。


 『シエル、エマージェンシー・レベルAだ。至急こちらに来てくれ』

 

ベルはどうやらシエルと通信をはじめたようで、もう取り付く島も無さそうだ。その間もエディンムは象徴的な角をドリルのように回転させて暴れまわっている。


  「コタロー……」


 茉莉が力の無い声を上げる。昨日の今日でこんな状況だもんな。やっぱり怖いに違いない。 ここは俺がしっかり茉莉の不安を取り除いてやらないと。


 「あの界獣……ハイパーマン∀に出てくるモゲロンにそっくりだと思わない?」


 「あー、言われてみれば確かに。モゲロンに比べるとなんか細いけど……じゃねぇよ! 今それ気にする所!?」


 「こうなってしまった以上、今更ジタバタしたって始まらないし、ここはベルに任せる事にしましょ」


 なんと言う潔さ! 漢前っ! あまりに漢前でございますよ茉莉さん! あんな化け物を目の前にしても全く物怖じしないとか、我が幼馴染ながら敬服するしかない。


 『まずいな。シエルとの通信が行えない。居場所も分からない状態だ』


 「それってやばいんじゃない?」


 『YES。現状は非常に芳しくないと言える。ひとまずは、シエルと通信が出来るようになるまでは可能な限り被害を出さないように凌ぐ他無い』


 巨大な体を駆動させて、ベルは数百メートル先で無作為に暴れているエディンムの元へと向かう。


 またまた破壊音が響く。今度はベルの足と俺ん家の塀がぶつかっているじゃありませんか。まるでウェハースを踏み潰したみたいに、粉微塵のボロボロ。見るも無惨な状態だ。


 「ちょっとぉおおおお!? なにやってんのぉぉおおお!?」


 俺の家がどんどんぶっ壊れていくんだけど!? 界獣はあっちにいんのに!


 『……本当に申し訳ない。後で必ず賠償をする。今は許してくれ』


 俺の家を壊して学んだのか、ベルは付近の家屋に注意を払いつつ、巨大な体を慎重に歩を進める。


 未知の技術を惜しみも無く投入したスーパーロボットが、日本の住宅事情にあくせくして爪先立ちになったり、忍び足になったりしながら敵の下へと向かう。


 その様子を、他でもないスーパーロボットのコクピット内で見ると言う経験は、なんだろう……新鮮と言うか、夢がぶち壊しになったと言うか。


まぁ、無事に敵の下まで辿り着けたんだし、いいって事にしよう……そうしよう。


 なんか妙な疲れを覚えて、俺はシートに腰を下ろす。

 

 すかさず、茉莉が俺の膝の上に座り込む。


 「し……仕方ないじゃない。他に座るところ無いんだし!」


 「いや、別に何も言って無いよ?」


 まぁ、突っ立ってるままってのも確かに辛いだろうし、仕方ないか。


 『ターゲット補足。これより状況を開始する』


 目前に荒れ狂う巨大な怪物を捕らえて、ベルが戦闘態勢に入る。

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