第10話 界獣の話




 「えっと、まずは……あの馬鹿でかい化け物についてだな。シエルはアレについて知っているんだろう? だったら聞かせてくれないか?」


  結局聞きそびれてしまったが、昨日はあの化け物について何か言おうとしていたようだったし。


 「承知しました。彼の名は再生界獣・パブロビア」


 「怪獣?」

 

 「いえ、『界』獣です」


 ややこしいな。おい。


「彼の者は地球圏の生命体ではありません。地球から遠く放れた宇宙からやって来た存在です」


 「ふむふむ」


 あれだ。言ってる事が物凄く現実離れしている。


 とは言え実際にあんな怪物が街中で暴れていたんだ。シエルの言う事に嘘偽りはないんだろう。


 「あれ? ちょっと待てよ。あのパブロビアって化け物は地球の存在でなくて、でもシエルはあいつの事を知っている。――という事は……」


 俺の疑問にシエルは頷いて答える。


 「私も地球人ではありません。コタロー様達からしてみれば宇宙人と言うことになりますね」


 それは意外。パッと見はどうみても普通の女の子なのに、その実地球から遠く離れた宇宙から来た存在だったとは。


まさか、本当に宇宙人がいるなんてな……じゃあやっぱ……」


 「あ、宇宙人と言っても私達と地球人の体の構成はほぼ同じみたいです。コタロー様との生殖行為に支障はありませんし、子を成す事も可能なようです」


 「うんまぁそうだね……でもそれは一旦置いて続き聞いていいかな?」


 ひとまず冷静に返してシエルに話の続きを促す。するとシエルは案外すんなりと話を続けてくれた。


 「私はこことは別の銀河から来た――地球で言うところの警察に類する組織の者です。私はパパブロビアを追ってここ、地球にやってきました」


 「成程な。シエルのホーム銀河は、ここからだとどれ位離れているん?」


 「約500万光年程離れています」


 「ふーん、500万光年ねぇ……500万光年!? 遠すぎない!?」


 そんな距離、地球のスペースシャトルじゃ100分の1も進まない内に燃料切れで行き詰るぞ。


 「実は私達の世界においても、地球へ辿り付く程の惑星航行は不可能でした。ですが近年になって技術革新が進み、超長距離の惑星間を移動するワープ技術を得る事ができました。地球へはそのワープ技術を使って来た形になりますね」


 「へー。じゃあ地球の事はまだよくわかんない感じ?」


 「そうですね。私達が地球の存在を知ってから、まだほんの1年も経っていません」

 

 地球を知って、そんなに日は経ってないのね。


「私達が地球を発見したあとは、地球人に私達の存在を悟られないように、慎重に調査を行っていました。生態は似ていると言っても、文明は大きくかけ離れているものですから、不用意に地球人と接触したらどんな混乱をもたらすか分からなかったものですから」


 「確かに、地球から遠く離れた宇宙人です! なんて簡単には言えなさそうだしなー」


 「ですが、不慮の事故が発生してしまい、界獣を引き連れてこちらの世界で指名手配中の犯罪者が地球へ来てしまいました。」


 指名手配中の犯罪者……だって!?


 「そこで私が犯罪者の捕縛、および界獣の討伐の任を受けてこちらへやってきた。と、これが一連の概要になります」


 なるほど、大体分かった。


 「で、これからシエルはどうするの?」


 「少々調査したい事がありますので、少し外出しようかと思います」


 「――ちょっと待て。その格好で外出るのはまずい! つーかいつまでそんな格好してるの!?」


 なんかすっかり見慣れてしまったけど、シエルの今の格好は外を出るのにはあまりいいファッションとはいえない。


 とりあえず洋服タンスの中から、今俺が着ているものと同じジャージの上下セットを出してシエルに渡す。


 「ほら、とりあえずこれに着替えて」


 俺のジャージを受け取ると、なんと言うことでしょう! シエルはその場ですぐさま着ているお召し物を脱ぎ始めましたではありませんか。


 「ちょっとぉおおお!? 何で脱いでいるのぉおおおお!?」


 「着替えるなら、今来ている服は脱がないと……」


 「ちがうちがう! そうじゃない! まだ俺がいるじゃん!」


 しかしシエルは俺の言葉に首を傾げてしまう。まるで俺がいる事に何の問題があるのか? と言いたそうな感じだ。


 「俺が部屋をでるから、その後着替えて。終わったら報告。いいね?」


 そう言って俺はそそくさと部屋を抜け出す。


 ……なんで自分の部屋なのに、こんな後ろ暗い気持ちで出なきゃいけないんだろう…?


 程無くしてシエルが「終わりました」と扉越しに声をかけて来たから部屋に戻る。


 「よし、ばっちりだ。これなら問題はないな」


 今のシエルは普通にどこにでもいる女の子だ。これなら胡太郎さんも安心して外出をOKできると言う物。


 「ちなみに道案内とかはいる?」


 「とくに必要は……はっ!? もしかしてこれが噂に聞くデートと言うもののお誘いですか! でしたら是非!」


 「いいえ、デートのお誘いではありません。僕はお家でゆっくりしてるので気をつけて行ってね。暗くなる前には帰ってこいよ」


 「あぅぅ……それじゃあ行ってきます……」


 シエルが部屋から出るのを見届けた後、俺はベッドに横になる。


 「はぁー……まいったね。これからどうなる事やら……」


 おっぱいを揉み揉みした事は紛れもない事実だし、そうなると邪険に扱う事はできない。それに例のロボットを操縦していたのがシエルなら、彼女は2度も俺を窮地から救ってくれた事になる。


 後ろめたさだけではなくて、恩義もあるとなれば、ますますシエルとどうむき合っていくか悩むな。


 「あれ? そう言えば、あのロボットは……どうしたの?」


 さっきのシエルの説明ではすっぽり抜けてたけど、あのロボットは一体今どこでどうしているんだ?


 「まぁ、いっか。どっかに上手く隠してるんだろうよ」


 それよりも、まだ少し眠い。


 今日は一日何も無いし、二度寝という素晴らしく有意義な時間を過ごす事にしよう。まどろみに入るべく瞼を閉じて、睡魔に身を任せる。


 しかし、脳裏にさっきまで見ていたシエルの扇情的な格好が電光のように割って入り、思うように寝付けない。

いかんな、これはとても由々しき事態だぞ。寝つきの良さが自慢のこの俺が、こんな状態でどうする。


 睡眠に集中……そうだ、こんな時こそ古来より伝わる羊さんの出番だな。

羊が一匹……羊が2匹……羊が3匹……ひつ……おっぱいが一匹……おっぱいが2匹……


 「二つ合わせてボインボイン! イエァッッ!」


 駄目だ! 眠れない! 全く眠れんぞ! 遠足前日のわんぱく小学生が、明日起きるであろう数々のお楽しみに胸を膨らませ過ぎて、中々寝る事が出来ないのと同じように。


 とりあえず寝るのは暫く無理そうだな。


 諦めてベッドの上をゴロゴロする。だが、それでもふとした衝動で悩ましきビジョンが鮮烈に映し出される。駄目だな……これは暫く脳みそから離れないっぽいな。


 天井を見つめながらそんな事を考えていると、なんか外がやけに騒がしくなる。

なになに? なんか有名な芸能人でも見かけたとかそんな感じ? とりあえず外の様子を見ようとカーテンを開けてみる。


 するとなんと言うことでしょう! 窓の向こうには行方を気にかけていた

 巨大ロボットの横顔がアップであるじゃないですか!

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