第2章 我が家にスーパーロボがやって来た

第9話 目覚めの朝の話



 カーテンから日差しが差し、鳥の鳴き声が聞こえる頃、目が覚める。


 「ふ……わぁぁ……」


 まだまどろみから覚醒仕切れていない俺の脳みそだが、それでも昨日起きた事はすぐさま鮮明に思い出す事ができた。


 巨大な化け物、巨大なロボット、で、中には女の子……しかも、アクシデントとは言え、その女の子のアレを俺は……


 思い出して、郷愁が俺の胸に去来する。あの素晴らしく、甘美な感触はもう味合う事は叶わないだろう。


 そう思うと涙を禁じえないが、気持ちのいい朝に湿っぽい涙は不釣合い。爽やか少年・胡太郎は過ぎた思い出を胸に秘めて今日を生きる事にしよう。


 「あれ……そう言えばあの子はあの後どうしたんだっけ? 確かあの後……あれ? 何があったか思い出せない……」


 おっぱいを揉む……じゃない、不幸な事故が起きたあたりまでははっきりしっかり覚えてる。


 しかし、その先何があったかの記憶がすっぽ抜けている。なんかいろいろあったような……えっと、なんだっけ? 


「すー……すー……」


 記憶をリブートしようと頭を唸らせている俺の横から、規則正しく、それでいてかわいらしい寝息が聞こえてくる。


 俺は寝息のするほうに視線を向ける。


 そこには――


 「なんじゃこりゃあああああ!?」


 視線の先にはなんと言うことでしょう! ベッドでスヤスヤとおねむしている

 例の女の子が!


 更に豪華特典として、その女の子は一糸纏わぬすっ裸じゃあないですか!


 「はわ……はわわ……!」


 あまりの出来事に柄にも無い台詞を口にしてしまう。


「う、うーん……」


 「ッ!?」


 思わず口から心臓を吐き出しそうな程のサプライズ。


 女の子の麗しきお目覚めがもうすぐそこまで。


やばいやばい、やばいって!

この状況どうするの!? ねぇ!? やばいよこれ!?

今のこの状況、どう見たって俺がチカンマンにしか見えないよねぇ!? ねぇ!?

 

 まずい……まずいまずいまずい……こんな状況だ。起きたら通報待った無しだろこれ。

 

 「う……うーん……」


人の世のなんと無情な事か。

 

 まぶたを開けたおんなのこの目と俺の目が合ってしまった。


 「あっ……あぁぁ……」


 オワッタ……モウダメダ……オシマイダ。


 「あ、コタロー様。おはようございます」


 まだ眠気が取れきれてないのか女の子はぽやーっとした雰囲気で、朝の挨拶を交わす


 「あっ、えっ? ハイ……オハヨウゴザイマス?」


 釣られて俺もおはようの挨拶。


 「――じゃなくて!」


 今はのんきに挨拶をしている場合じゃない。


 「どうかされましたか?」


 女の子が首をかしげてくる。


 あれ? なんか反応が俺が想像していたのと違うんですがそれは?


 「えっと……通報、とかは……」


「通報? どうしてそんな事をしなくてはいけないのでしょうか?」

 

 うん……? 通報は無いの?


 いまいち腑に落ちないが、ひとまずは安心してもいいのか?


 「ん? じゃあなんでそんな格好を……」


 「はい、地球の男性は、こう言う格好が好きと聞いたので」


 「ハイ! 地球の男性は女の子がそう言う格好するの好きです!」


 ――じゃねぇよ! 条件反射でなにほざいてんだ俺!


 「そうじゃないそうじゃない」


 とにかく頭をクールダウン。欠けてしまった記憶を思い起こそう。


 そう、たしか昨日、泊まるところが無いと言う事で、彼女を俺の家に泊めた。そこまでは思い出した。


 で、名前は……あれ? なんだっけ?


 「えっと……たしか君の名前は……?」


 「はい、シエルと申します」


 「シエルさん、ね」


 シエル。それがこの女の子の名前か。


 「そんな! 「さん」だなんて他人行儀ですよ! シエルと呼び捨てにして頂いて結構です」


 「そう? それじゃあシエル」


 「はい!」


 やけに嬉しそうに返事をするシエル。


 「シエルはなんでそんな俺を悩殺するような格好をして、俺と同じベッドで寝ていたんだ?」


 実際、今も目のやり場に大変困っています、はい。


 「旦那様と同じ部屋で寝るのは、伴侶として当然の事です」


 「あー、まぁそれは確かにね。――んん? ちょっと待て、旦那様? 誰が?」


 「それは勿論、コタロー様の事です」


 「えっ、俺? なんで俺が旦那様?」


 なんでなんでどうしてそうなる?


 「昨日の事はお忘れになったのですか?」


 「昨日の事……」


 それは、まぁあれだよな。アレのことだよな?


「あの時のコタロー様の熱い求愛には、私も凄くドキドキしました」


 求愛って、もしかしてあの不慮の事故をそう捉えたのか!?

 

 「あー……えーっと……なんと言うかですね……その……あの……」


 冷や汗をダラダラ流しつつ、どう弁明すればいい物かと必死に考える。


 「コタロー様が本気なのは分かりました! もう私もコタロー様と添い遂げる覚悟はできています!」


 えぇぇぇ……これどうすればいいの、俺。いやマジで、


「不束者ですが、末永くお付き合いくださいね」


「えっと、ね……そうは言っても……親に何も話さないで進められるような事でもないし、ひとまず保留にしてくれれば嬉しいなーって思ったりしておりましてですね……」


 まるで針のムシロが敷かれた、最後の審判の席に座らされたような気分で、

 俺は減刑の懇願をする。


 「たしかにそうですね。それではコタロー様の御家族とお話いたしましょう! 家には居ない様なのですが、どちらに居られるのでしょうか?」


 めっちゃぐいぐい押して来るよこの子。肉食系かよぉ。


 「今は用事で俺以外は出かけてる。もうしばらくすれば帰ってくるはずだけど」


 「そうですか……それは残念です」


 俺の親が不在な事を知って、シエルの勢いが弱まる。


 ――今が好機!


 「なぁシエル。結婚って言うのはさ、人生の一大事だ。がっついてやってもいい結果にはならんさ。待てば海路の……海路の……まぁなんとかって言うし、そんな焦らなくてもいいんじゃないの?」


 努めて冷静に、なだめる様にしてシエルを説得する。


 「俺達は知り合ってまだ日が浅い。結婚の話を進めるよりも先にするべき事がいっぱいあるはずだ。そうだろう?」

 

 「確かに……そう焦っても仕方の無い話ですね」


 やったぜ! 流れ変わった!


 「そそ。焦っても仕方ないは・な・し。この件についてはいずれ煮詰めるとして、他にも色々話す事あるじゃん?」


  咳き払いをして、俺は話を続ける。

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