第8話 ボーイ・ミーツ・ガールズ――

耳を塞がずにはいられない叫び声を上げながら、異形の怪物が爆ぜる。


「勝った……んだな」


もしかしたら、復活するかもしれない、そう思って様子を見守っていたが、その気配もない、化け物は文字通り爆散したようだ。


 「あのロボット、怪物をやっつけてくれたの?」


 俺の袖を掴みながら茉莉が問い掛けてくる。


 「あぁ。もう大丈夫だ。」


 俺の言葉を聞いて女の子の顔から不安の色が消えて無くなる。



 脅威も消えた事だし、茉莉を連れて校庭にでる。すると校庭にたたずんでいたロボと俺の目が合う。


 本当にこいつはなんなんだろうな。敵では無いんだろうが、それでもまだ正体不明な事には変わりない。


「なぁ、お前は何処から、何をしにここに来たんだ?」


 率直な疑問をロボットに問い掛ける。勿論、返答は無い。


 答える代わりに、かどうかは分からないが、ロボットにアクションがあった。

 胸部の装甲が開いて、そこから誰かが出てきた。


 「おん……な……? 女の子!?」


 巨大ロボットの中から女の子が出てきた。

 

  宇宙服を思わせるスーツからわずかに見える、雪のように白い肌に、長く伸ばした銀河の輝きを思わせる銀色の髪。


 雑誌の表紙を飾るモデルとすら比較できるほどに調った顔立ちとプロポーション。醸し出された神秘的な雰囲気は、どこが別次元のものに思えるが、それでも巨大ロボットの中から出てきた彼女は俺と同じ人間にしか見えなかった。


 そうなると、あのロボットはやはりどっかの国が極秘に作ったとか……なのか?


 「どうか怖がらないで下さい。私達に貴方達を襲う意志はありません」


 女の子は流暢な日本語で俺に話してくる。てっきり外国人だと思っていたから、少し意外だ。


「今回の騒動についての説明と、謝罪を伝えたいと思っています。よろしければお話を聞いていただけますか?」

 

「えっ? あ、あぁ……そうだね……説明お願いします……?」


 目の前で起きている事態に、まだ思考の方が追いついていないが、

 とにかくそれだけを彼女に伝える。


「それでは……まずは私達の事についてお話をさせていただきます」

 

  銀色の髪をなびかせながら女の子は巨大ロボットの手のひらに立つ。


 そこで突然、一陣の突風が。


「えっ、あっ……ちょっ……! わっ……わわわ……!」


 巨大ロボットの手のひらと言う、いささか以上に足場の悪い場所で立っていた女の子は、風の煽りを受けて体制を崩している。


 あーあれ危ないな、落っこちちゃうぞ、あのままだと。


 「あっ……あああああぁぁぁぁあ!」


 ほら見ろ言わんこっちゃない。


 女の子は体勢を維持しきれずにロボットの手のひらから落っこちちまった。


 「あぶねぇ!」


 彼女を受け止めようとして、落下地点に先回りした。


 上手い事キャッチ。


 ……とは行きませんでした。

 

 女の子の落ちた地点が予測した所とは微妙に違ったたため、受止めるどころか俺が下敷きになる格好になった。


 体を起こそうとしたが、腹に重たい物がのしかかっていてそうも行かない。それよりももっと奇妙な事がある。


 「なんだ、このもにゅもにゅっとした感覚は……?」


 俺の手の中になんか、こう……丸みを帯びたなんとも言えない感触のする何かがあった。


 なんだろうこれ、不思議と安らぐ。

 

 「コタロー……アンタなにやって……」


 明らかに不機嫌な茉莉の声が聞こえる。え、俺なんかまずい事やった?


「ひゃっ! な……なにを……」


 女の子が震えた声を上げる。視線を女の子のほうに向けると……


 「なんじゃこりゃぁぁぁああああ!」


 俺の両手には二つの至宝、全国の良い子たちの羨望と崇拝を一身に受ける希望の極致、禁断の果実が収まっているではありませんか!


 「やっ……そ、こ、はぁっ……だめ……」


何をやっているんだ俺! これじゃあどこの誰がどっからどう見ても、どのような解釈をしようが公然セクハラしてるようにしか見えないじゃねぇかよ!

 やめなくては。今すぐに。速やかに。


 それは分かっている。それこそ充分過ぎるほどに理解しているさ。


 ――理解はしているんだよ。


 「や……やめられない……と……とまらない……」


  脳が放せと命じているのに、俺の両腕がその命令を拒否している。


 「静まれ……俺の腕よ……静まれってば! ねぇ! もしもーし?」


 だが、しかし、我が腕に静まる気配……一向に無し!

 かつて無い事態発生。飼い犬に手を……なんかされるって言葉があるが、まさか俺の体の一部が、他でもないこの俺自身に反旗を翻す日が来ようとは。


――そう、これが俺と彼女との出会い。


そしてこれから始まる大いなる運命の序幕となったわけだが……この時の俺は、ただひたすらにたわわな果実の感触をメモリーする事しか頭に無かった。

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