第7話 再生界獣との戦い
太陽を背に、悠然と空に佇んでいる鋼鉄の巨大ロボットの内部に設えてあるシートに少女が一人腰掛けている。
「ふぅ……間一髪、だったね」
全身をぴっちりと包み込む不思議なスーツを着た少女は、胸を撫で下ろしながら安堵の声を上げる。
「再生界獣・パプロビア。まさかもう一体、それも成体がいたなんて……」
『――シエル』
通信機を介して、抑揚の少ない声が響く。
正面のモニターに、怪物とは別に、拡大された人の姿が映し出される。シエルと呼ばれた少女は正面のモニターに映し出された人物を見て驚愕する。
「あの方は……先日の――」
モニターに映し出された人物にはシエルも心当たりがある。
今しがた怪物の襲撃から救出した人物の内、少年の方はつい昨日も遭遇した。最も、シエルがこの巨大なモニターを通して一方的に見ただけに過ぎないから、彼の方はシエルの事は知らないはずだが。
『不思議な縁。とでも言うべきだろうか? よくよく彼とは巡り合う』
その言葉に、シエルも内心で頷く。
『いずれにしても、まずは目前の状況を解決する必要が認められる』
「えぇ。周辺の状況はどう?」
『あの建物には先日出合った彼を含めて、まだ生命反応が認められる。中の民間人に危害が及ばないように配慮を行う事を前提に、速やかなエネミーの討伐が、現状では適当だと判断する』
「了解。これより戦闘行動を開始します」
シエルの声と共に、ロボットの両腕から光の刃が形成される。
大空から急速に地上へと舞い降り、地上を蹂躙する巨大な生命体と相対する。
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正面にいる怪物――パブロビアが奇怪な鳴き声を上げながら襲ってくる。
異形の触手と、鋼鉄の巨人が振るう、光の刃が交差する。
既にパブロビアとは数合切り結んでいるが、なかなか戦局が有利化しない。
昨日の個体と打って変わって、成体となったパブロビアの腕は切断しても、二撃目を繰り出すよりもはやくに再生回復してしまう。
『驚異的な再生力だな。一本一本相手取っていては埒が明かない』
「それならこれで!」
光の刃を光波にして、パブロビアへと放つ。
1本、2本、3本……光波は小気味よくパブロビアの腕を斬り落としていくが、瞬きする間もない内に新しい腕が生えてしまう。
その再生はもはや生命に対する冒涜。自然の法則が作り出した命のルールを侮蔑する、歪に捻じ曲がった醜悪な力と言える。
20mを超える巨躯を誇る両者の、激しい打ち合いがいつまでも終わる事のないワルツのように続く。
殺到する幾重もの触手を捌きながら、何とか持ちこたえているが、シエルの方もそれ以上には至らない。
パブロビアが口から墨を無数に吐き出し、程無くそれは紅蓮の火球となって巨大ロボットに殺到する。
「アドヴェントイーリス、展開」
シエルのその声と同時に、巨大ロボットはシールドを形成してパブロビアの猛攻をやり過ごすが、荒れ狂うパブロビアが放つ紅蓮の火球は、歴史を感じさせる木造の一軒家を、最近できたであろうコンクリート造りの集合住宅を、そして路上に打ち捨てられている無人の車の数々を――街を灼熱の赤で染め上げていく。
『まずいな。このままだとこの街の被害が増大する一方だ』
「流石に、昨日と同じようにはいかないようね……それなら!」
巨大ロボットが後退する。両腕から発生していた光の刃が霧のように消えて行く。
しかし、巨大ロボットの腕は、光の刃よりも尚、強い光を帯びている。
それはまるで、暗き空を照らす星の輝き。闇より出でし黒を浄化する、光と共に現し白。燦然と輝く。その名は――
「アークサージ・グレイス!」
シエルの掛け声の後、パブロビアへと向けて構えた両腕からビームが撃ち出される。
凄烈なる閃光が、パブロビアの触手を思わせる腕ごと本体を覆う。
圧倒的なエネルギー量を持つビームをもろに受けたパブロビアは、断末魔を上げながら爆発して散っていった。
『エネミーの撃破を確認。ミッションコンプリート。人的被害はゼロだ』
「そう、よかった……」
安堵の声を上げて、シエルは脱力する。
「それにしても――」
モニターに映し出されている少年を見つめながら、シエルが呟く。
「不思議な縁、ね。たしかに、少し興味あるかな」
『シエル。地球人との交信は本来我々の務めでは無い。不用意な接触は控えるべきだ』
シエルを諫める通信機越しの声。その声はまるで、悪戯に手を出そうとする子をたしなめる親のそれを思わせる。
「わかってますってばー」
ふてくされ気味に答えるシエル。しかし直後に何か妙案が浮かんだかのように口元をわずかに歪ませる。
「でも、ここまでの事態に発展した以上何も説明しないって言うワケにもいかないよね?」
『それは私達のロールではない』
「でも、これだけの騒ぎ、早く対応しておかないと大きな禍根になりえるわ。それなら今、地球の方にも多少なり事情を説明しておいた方がいいんじゃないかしら?」
『確かに、その意見に理はあるが……』
「本部の方からもある程度は私達の判断で行動する許可を貰っているし、ひとまずあちらの方にだけ軽く話をするだけに留めておくから、ね?」
『そう言われても、判断が難しいな……どうしたものか』
「どうする?」
『……彼等との接触を試みよう。但し、くれぐれも慎重に行動するように』
「やったぁ!」
シエルは両手を叩いて喜びを表現する。
『シエル。これはあくまでも任務だ。もう少し厳然とした態度で臨んでもらいたい』
「はぁいわかってまぁす」
果たして、厳然とは言いがたい雰囲気を放つシエルの目の前で、圧縮された空気を吐き出しながら正面のハッチが開く。
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