エピローグ

 その日、一つのニュースが流れた。


 近隣の山中で女子高生二人が死亡しているのが見つかる。二人はクラスメイトで、一緒に山へ遊びに出かけたと見られる。

 一人は崖から突き落され、もう一人は首を絞められ殺されていた。

 警察は同一犯によるものとみて、殺人と死体遺棄の疑いで捜査を進めてる。


 報道されたのはこの程度の事だ。警察は事件解決へ動き出している。しかし噂によると、場所が場所のため目撃証言などは皆無に等しく、捜査は難航しているとのこと。

 犯人は、まだ捕まっていない。


     ***


 浦部と水谷の合同葬儀にはクラス全員が参加した。もちろん僕も。みんな、突然の出来事にショックを隠せないようだった。女子の中には泣いている者もいた。

 だが一番衝撃が大きかったのは、やはり水谷の両親であったようだ。突然娘を奪われる不幸に見舞われ、葬儀の途中で泣き出す場面も見られた。

 悲嘆にくれる水谷の母親を、浦部の母親が励ましていた。しっかりして、一緒に頑張ろう、私が付いてるから……。その言葉に頷き返し、抱きしめ合う――葬儀の間中、そのような光景はずっと続いた。


 事件発生から一か月ほども経ったある日――僕は町はずれの山の麓にある小さな寺を訪れていた。寺の敷地内には墓地があり、僕はその隅っこを目指して歩く。足を止めた僕の目の前には浦部の墓があった。墓ができた直後はひっきりなしに訪れていた墓参人も今は落ち着き、周囲に僕以外の人影は見当たらなかった。

 墓参り自体はクラス全員で行った。だけどそれとは別にもう一度、一人だけで浦部に会いに行こう――僕はそう決めていた。

 長い言葉はいらない。伝えたいのはただ一言だけ。

「やったぞ」

 拳を作り浦部の墓に触れると、辺りを一筋の風が吹き抜けた。土煙が巻き起こり、僕は目を拭った。

 浦部はもういない。僕がただ一人愛した女はもうこの世を去り、再び僕の前に現れることは永久にない。体は焼かれて灰となってしまった。

 生きながら焼却炉で焼かれる浦部を反射的に連想してしまい、こんな時でもコレか、と苦笑が漏れる。その笑い声を聞いて、僕は以前ほど自分で自分を嫌ってないことに気付いた。


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羊水の墓に眠れ 瑞樹楼蘭 @roran

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