第5話 「世の終わりのための四重奏曲」(メシアン)
今夜で世界が終わる?
ならば、そのものずばりのこの曲で終わらせよう。
といっても、原題はそういうことばではなく、「時の終わり・・・fin du Temps」ということだったようだが。
オーケストラの曲とか、合唱が必要な作品は、規模が大きくて、なかなか準備も大変だ。明日で終わり、と言われても間に合わなかもしれない。
しかし、この作品は、ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノ、という少し変わってはいるが、現代ならば割と近くにある楽器のために作られている。
もっとも、演奏できる人は、限られているだろうけれど、緊急時には設定しやすいのではないだろうか。
メシアンさんが第二次大戦中、ドイツ軍の捕虜になっていた際に作曲された作品とのこと。
「トゥーランガリラ交響曲」なら、聞いたことあるぞ、とおっしゃる方ならば、なるほど、これはメシアンさんの音だなあと、お思いくださるかな、とも思います。例えば第七曲の「世の終わりを告げる天使のための虹の混乱」に出てくる、ピアノの下降音型とか。
第二次大戦中に、ドイツ軍の捕虜収容所で、作曲や演奏が許可された、という事実は、ほんの少しだけ、心の救いのような気もする。幹部の人が音楽や芸術に、理解があったのだろうな。
まして、後世に残るこうした作品が作られたのだから、ありがたかったわけです。
曲は、全部で「やっつ」の楽章で出来ているが、この「8」という数自体に大きな意味があるようだ。
天地創造の六日と安息日と、その次の日、ということらしい。
ぼくもそうだが、キリスト教徒以外には、ちょっとわかりにくい概念かもしれない。
しかし、もしそれが、「時の終わり」の一つの意味ならば、通常の一週間から外れてしまった、最後の日、最後の時、ということかもしれない。
創造されたものが、破壊される、最後の時、ということで。
でも、メシアンさんが、「小惑星の衝突」や、「宇宙人の襲撃」などを考えていたという情報はありません。
けれども、まだ終末の見えない、1940年に作曲されており、「戦争」という異常事態が関わっていることは、確かなのだと思う。
「戦争」は、いまこの時も、あちこちで・・・つまり、ぼくの頭の右側や左側や上や下や・・・で、ちらついている。
日本では「有事」という、いささか不明瞭な言い直し方になっているけれど。
第一曲「水晶の典礼」、印象的なクラリネットから始まる。もう最初から、この世界からは、どうやら、なかなか見えないような世界。不思議な世界。でも、あちこちで鳥が鳴いているらしい。いや、騒いでいるのかな。不安で、ちょっと落ち着かない感じ。
第二曲「世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ」には、正体不明の恐怖が潜んでいる。それが、どこにいるんだか、よく見えないのだけれど。
中間どころの静かな『歌』も、ぼくには相当不気味。
ぶっつりと終わってしまうのが、また怖い。世の終わりは、こうして突然ブっつりと来るのだろう。
第三曲「鳥たちの深淵」。これぞメシアンさん、というような、深い精神の発露だ。実際これは印象的な音楽です。西洋音楽には珍しく、音のないところに、より
大きな意味がある作品。
第四曲の「間奏曲」、ここは全体の中間点。全体的に宗教的で異世界的な作品の中で、どこか、バルトークさんの様な、ある種の人間性の雲が、ふわっと浮かんでいるところ。すぐ消えてしまう。
第五曲は「イエスの永遠性への賛歌」、メシアンさんの精神のたぶん根幹部分からくる音楽。でも、仏教であれ、キリスト教であれ、どこの宗教の中でも、たぶん感じられる「永遠性」に、おそらく、その人間的な本質に変わることはないんじゃないかとも、思うけれど。
あと、八曲めまで、「七つのトランペットのための狂乱の踊り」・・・。ここは、実にカッコよい見栄えのする音楽。「世の終わりを告げる天使のための虹の混乱」、最後の「イエスの不滅性への賛歌」と、続いてゆく・・・。
最後の曲は、オルガン曲が元になっていて、そこには「天国」という副題がのちに付けられたという。もう、人間の痕跡は感じられない「天国」。
ヴァイオリンの終末のソロがとても印象的で素晴らしい! ここはもう、理屈抜きで、音楽だけでけっこうです。
ある程度以上の大きさの小惑星でなければ、人間は見つけられないとか。
でも、大きすぎたら、たぶん手出しができない。
宇宙人にも、地球に来るような技術がある相手なら、これもどこかの、英雄的な映画のようには、歯が立たない。
でも、自分たちの戦争を止める力だけは、まだある。
たぶん。
欲求不満で、「もっと、やれやれ!」なんて国民が思っていたら、本当に危ないかも知れないから、お互い注意しなければ。前の曲でも誰か書いていたが、メシアンさんが聞けなくなるなんて、そんな悲しい事は、嫌です。(「アンパンマン」の主題歌のような感じで)
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