第2話 「タピオラ」(シベリウス)
思いますに、今夜で地球も人類もおしまいならば、最後に聞く曲は、この曲しかありますまい。
ぼくは、そう思うのです。
「タピオ」とは、「森の神様」、「森の主」のこと。
「タピオラ」は、タピオの住むところのことであります。
フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」に、ずっと流れ続ける、基本的な「精神」というべきものでありましょう。
この音楽ほど、久遠の中に、そう、永遠に消え去る、人類へのオマージュとして、相応しいものは、他にないでありましょう。
宇宙が、最初に生まれて、38万年ほどたった時、初めて水素原子が作られたのだといいます。水素の元素記号は「H」。
「タピオラ」は、まさに単一主題の音楽なのであります。
それのみで、20分に達する時間、一瞬の気のゆるみもなく、ひたすら何もない世界に広がって行くのです。
まさに宇宙そのものです。
そうして、あらゆる発展を尽くし、11小節にも及ぶ、長い長い弦のアンサンブルで、終結を迎えます。
第一バイオリンは二部に分かれて「H」をオクターブで、第二バイオリンはやはり二部に分かれて、「Fis」と「H」を、ヴィオラは二部に分かれた中で、さらに二部ずつに分かれ、「Dis」「G」「H」「Dis」と弾き、チェロはこれまた二部の中が二部になって「Fis」「H」「Dis」「Fis」、べースは主音の「H」を、永遠に響かせます。
まさに、上も、下も「H」なのです。
これが、独特の「永遠」を感じさせるので、ありましょう。
かつて、聞いたことがないような神秘の音です。
ぼくは、この曲を聴いた後は、しばらく他の音楽を聴く勇気はなくなります。
この、最後の響きが、永遠であってほしいと、じっと願うのであります。
そうして、本当にこれが地球の最後なのだという事ならば、それはこの「傑作」を、宇宙に帰す最高の機会であろうと、思うのであります。
ま、もちろんこれは、想像ですが。
でも、もしかしたら、あす終わりが来ない保証もありますまい。
ただ、ぼくは、「焼きそば」よりも、最後は高級「お寿司」にしたいです。
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