その24-2 私は私――

場所不明――


 闇の中に私はいた。

 右も左も、上も下もわからない。

 何もない、彼方まで続くその空間で、私は座っていた。


 ふと視線を落とした自分の手は透け始めて、向こう側の闇を覗かせている。

 気づけば手足の感覚も冷たく、そして鈍くなってきているのがわかった。

 消えかけている――そう思った。

 

 怖かった。

 悔しかった。

 

 あいつの思惑通りになっている。

 あいつの思い通りにされている。


 もう少しで、のだろう。

 諦めたくない。けれど、やはり……だめなのだろうか。


 そう思っても、不思議と涙は出てこなかった。

 こんなにも心の中は淀み、絶望に満たされているというのに。

 もはや感情すらも消えかけているのかもしれない――


 冷静に現実を受け止めてしまっている自分に嫌悪を抱きながら、なっちゃんは俯いた。

 


「あら、もう諦めるの?」



 と、女性の声が唐突に降って来て、少女は意外そうに目を見開く。

 聞き覚えのある声だった。いや、というか聞き間違えようのない声だった。

 聞こえてきたその声色は、いつも自分が辛辣に毒を吐く時の声色そのものだった。

 

 はたして、顔を上げた少女の眼に映ったのは、まさしく『茅原夏実』自分自身――

 いや、の彼女と形容した方が正確かもしれない。

 

 雪のように白い肌も、僅かに反った長い睫毛も。

 意志の強そうなぱっちりとした眼も、高い鼻も薄い桃色の唇も。

 そして彼女を象徴するような黒く艶やかなロングシャギーの髪までも。

 彼女をたらしめんとする、それぞれの部品パーツを良成長させた、謂わばが、目の前に立っていたのだ。


 唯一、異なる点があるとすれば、それは匂い立つような大人の色香だろうか。

 同じく身に纏っていた黒と白を基調とした修道服の上からでもそのボディラインがわかる程に、出るところは出て、締まる所は締まっている。

 

「あなたは――」


 まるで生き別れのに出会ったように、二の句が継げずにいたなっちゃんは、ようやくもって口を開いた。


「私? 聞いてない? あの変態から色々と――」

「それじゃやっぱり……レナ――僧侶様?」


 ご名答。

 そう言いたげに、女性は少女のトレードマークともいえる、揶揄うような微笑を口に浮かべてみせる。

 そして、なっちゃんに向けて徐に手を差し伸べた。

 しばしの間、差し出されたレナの手をじっと見つめていた少女は、やにわにその手を掴む。

 暖かった。消えかけた自分の手に温もりを覚えつつなっちゃんは、誘われるようにして立ち上がった。

 と、立ち上がった少女の顔をまじまじと覗き込み、レナは感嘆の溜息を漏らす。


「驚いた、改めて見ると本当にそっくりね。私の若い頃に」

「あの……ここは一体――」

「貴女の中、心の中の奥深く」

「私の中?」

「そう、魂が宿る場所……と、言っても大分あの変態の術に支配されちゃったようだけどね」


 頭の中にマダラメの事を思い描いたのであろう。

 レナはその整った眉を顰め、辟易したように周囲の闇を一瞥する。

 

「どうして私の中に、あなたが?」

「賢い貴女なら、薄々わかってるんじゃないの? あいつに呼ばれて、無理矢理貴女の中に押し込められたから――」


 恐る恐る尋ねたなっちゃんの問いかけに気づくと、レナは彼女を向き直り髪を右耳に掛け直しながら微笑を浮かべた。

 改めてみると仕草や話し方まで本当に自分そっくりだ。

 見た感じ二十代前半だろうか。私も大人になればこんな美人になれるのだろうか。

 けれど、それももう無理そうだ――


「じゃあ私……やっぱりあなたと入れ替わるのね」

「このままいけばね」

「そっか……」


 感情が薄れてきている。

 どことなく他人事に思えて来てしまう。

 と、微笑みの少女らしからぬその挙動を見て、途端レナはやれやれと肩を竦めてみせた。


「私とそっくりなのは顔だけか……とんだ根性無しね」

「……そうね。そうかも――」

「みんなで元の世界に返るんじゃないの?」

「……どうしてそのことを?」


 意外な言葉がレナの口から飛び出して、なっちゃんは狐につままれたような顔つきで彼女を見つめる。

 クスクスと、本来ならば少女の十八番おはこである小悪魔的な微笑を浮かべ、レナは肘を抱え込むようにして腕を組んだ。


「ここは貴女の心の中。あいつの術のせいかしら、貴女の記憶が私にも伝わってくるの。貴女が何者か? どうやってこの世界に来たか? どうしてここにやって来たか、わかっちゃった」


 この子は仲間と共に違う世界からやって来た。

 そしてこの世界は……どこかの誰かが作った話? 

 そこはまあ信じられないとしても、でもこの子がこの世界の住人ではないのは、事実のようだ。

 次々と頭の中に流れ込んでくるなっちゃんの記憶を追いながら、レナは興味深げに、ふむふむ、と相槌を打っていた。


「……そう」

「あら、怒った? 人の記憶を勝手に盗み見るなって?」

「いいえ、ならわかったでしょ?……私の過去に何があったか――」


 私の過去――即ち、十一月の雨夜の出来事。

 聡明な少女は、今起きつつある事象を理解しつつ、落胆の色を隠さずに顔に浮かべて尋ねる。

 はたして、レナは返事をする代わりにゆっくり一度頷いてみせた。

 

「正直、驚いてる。どこの世界にもああいう奴っているのね、しかも容姿も言動もそっくり……思い出しただけで鳥肌立ってきた」

「……」

「ま、お気の毒様としかいいようがないわね。けれど、だからいいようにされても仕方ない――って諦めるの? ねえ、臆病者さん?」


 若干の苛立ちを含んだ、問い詰めるような口調でレナは尋ねる。

 と、俯き加減で話を聞いていたなっちゃんは、反抗的な光を瞳に灯しレナを見据えた。

 初めて少女が放った感情の揺らめきに、レナはクスリと微笑む。


「あんな奴にどう抗えっていうの?」

「それは貴女が無理だと思い込んでるだけ。貴女がそう決めつけて、恐れているだけ」

「いいえ無理よ。だってあいつは私を見ていない。私の言葉を聞いていない……あいつが見ているのは私じゃない! あいつが妄想の中で作り上げた私だもの!」


 だから、どんなに拒否しても、あいつの眼には映らない。

 だから、どんなにやめてといっても、あいつの耳には届かない。

 あいつが見ているのは、私というに映した、あいつの中の理想の『映像』――


 それでも必死で抵抗した結果、あいつは私を殺そうとした。

 逃げるような『中身』は要らない。美しい『器』だけずっと傍そばにいてくれればいい――と。

 そんな相手とどう戦えば良いというの?

 

 悔しさが込み上げてくる。

 情けなくなってくる。


 でも怖いんだ。

 あの濁った闇のように真っ黒な瞳を思い出すと、恐怖が込み上げて来て動けなくなるんだ。

 それは別人だとわかっていても、やっぱり同じだった。

 あいつそっくりの死神を前にした時、私の身体は私の意思を離れ、石像のように動けなくなった。


「悔しいけど……私はあなたとは違う。あの死神を、たった一人で倒したあなたとは――」


 ぎゅっと胸元で拳を握りしめ、なっちゃんは唇を噛み締めた。

 黙って話を聞いていたレナは、やがて小さな溜息をつくと思案するように目を閉じる。

 やがて彼女は目を開けると、隠すことなく赤裸々な気持ちを告げた少女を、まるで妹を見るような眼差しで優しく見下ろした。

 

「貴女が見えていないというのなら、嫌でも貴女が見えるようにすればいいじゃない」

「え?」

「情けないなあ。私にそっくりなのに、意外と男の扱いを知らないのね? まあまだ十七だっけ? そりゃ仕方ないか」

「男の……扱い?」


 ちょっと待って、彼女は僧侶様よね?

 それが……

 神に仕える者らしからぬ、何とも俗世じみたその発言に、なっちゃんは思わず目を見開いてきょとんとしてしまった。

 と、そんな少女の反応に気づいたレナは、顎に細い人差し指を当て、クスリと悪戯っぽい微笑みを口元に浮かべる。


「まあ貴女には言ってもいいか。どうせもう六百年も前の話だし」

「どういうこと?」

「私ね、僧侶なんかじゃないの。旅の僧侶のフリして行く先々で、お布施貰って生活してただけ」

「……嘘でしょ?」

「いいえ本当、神様なんて信じてないし」


 ついでに言えば『レナ』という名前も偽名なのだ。本当の名前は、今目の前にいる少女と同じ名前。


「なら、あなたは一体何者なの?」

「そうね……自分で言うのもなんだけど、詐欺師っていうかペテン師っていうか?」

「……さ、詐欺師?!」


 しばしの間、反応できずにぽかんとしていたなっちゃんは、やがて可愛い悲鳴をあげつつレナの顔を覗き込む。


「それじゃ伝承は――」

「フフ、伝承なんて信じるものじゃないってことよ^^」


 そう言って、レナはあっけらかんとウインクしてみせた。

 マダラメを倒して村を救った旅の聖女――それが実は詐欺師って、話が全然違うじゃない――

 知ってしまった衝撃の事実に、なっちゃんは感情が薄れて来ていたにも拘わらず、目を白黒させながら改めて目の前の自分そっくりな女性を一瞥する。


「ならマダラメを倒したのも、あなたではないの?」

「ああ、それは本当。私の服を脱がそうと近寄って来た所を、こう、ナイフでブスリと――」


 と、胸を一突きするジェスチャーを億尾もなくしてみせながら、レナはニコリと笑った。

 この人私がモデル……だよね? もしかして私、舞ちゃんとかにこんな風に思われてるの?――

 害虫を駆除するのと大差ない口ぶりでそう告げたレナに対し、さしものなっちゃんも顔に縦線を描く。


「でも失敗だったわ、あの村に寄ったの。まさかあんなド変態が暴れてるなんて思わなかったから」

「ちょ、ちょっと待って……もしかして、マダラメ退治を引き受けたのは成り行きだったってこと?」

「ええ、そうよ」


 もっと入念に下調べしておけば、あんなほとんど儲けのないしけた村なんか寄らなかったのにね――

 ぼそりとそう呟くと、レナはバツが悪そうに整った顔立ちを苦々しいものに変える。


 呆れた。やっぱり彼女の言う通り、伝承なんて信じるものじゃないわ――

 真相を聞けば聞く程、伝承とは程遠いその内容になっちゃんは絶句する。

 でもそれならそれで、腑に落ちないことが一つある。

 事象をもう一度頭の中で組みなおし、前後関係を整理し始めていたなっちゃんは、浮かび上がった一つの疑問を、レナへと投げかけた。


「――ならどうして? 逃げればよかったのに」

「え?」

「詐欺師なんでしょ? なら引き受けたふりをして、そのまま逃げれば良かったのに。何の義理もない村だったんでしょ?」

「……はっきり言うわね。その考え方、嫌いじゃないわ。貴女、詐欺師に向いてるかも」

「あなたの立場になって客観的に考えてみただけよ」


 見た目もそっくり、考え方もそっくり。自画自賛するわけではないが冷静で頭の回転が速く、肝も据わっていそうだ。

 ますますもって奇妙な気持ちになってくる――

 身も蓋もなく、冷徹なまでに割り切った発言をしたなっちゃんに対し、今度はレナの方が狐につままれたような表情を浮かべる番だった。


 だが、少女の疑問は正鵠を射ている。

 僧侶でもなんでもなく、ただの詐欺師ならば。

 そして目的が村人からのお布施だったのであれば。

 頼みなど聞かず、マダラメなど放っておいて、さっさと村を逃げてもよかったはずだ。

 なのに何故彼女は、村人達の懇願を聞き入れてマダラメ退治に向かったのだろう。


 なっちゃんはその答えを促すように、首を傾げてみせる。

 はたして、きっと彼女も最初は恐らく逃げ出そうと思っていたのであろう。

 図星をつかれたように子供のように、レナは幾分頬を紅潮させたが、すぐに大人の余裕を見せるようにクスリと微笑んだ。

 

「大した理由じゃないわ。ああいう男が許せなかっただけ」

「マダラメが? それだけ?」

「そう、それだけ」


 正直村なんてどうでもよかった。

 ただ、女を物としか見ておらず、女は自分の欲求を満たすために存在している――そういう考えの男が気に入らなかった。

 本当にそれだけの理由だったのだ。


「あいつが私に惚れた理由知ってる? ただ私があいつの母親に似ている――それだけよ」

「……ストーカーの上にマザコンなんて最悪ね」

「でしょう? のと一緒よ。母さん、母さんって、私を見ていなかったし、最初から最後まで脳内で恋愛してるだけのオ○ニー野郎なの」


 結局相手の中身などどうでもいいのだ。ただただ自分の理想に近いが傍にいればいい。

 あとは自分の理想の恋人を都合よく頭の中で生み出し、それをに投影させて、一人で目出度く盛り上がれる幸せな奴なのだ――

 冷静で大人の余裕を見せていた女性が、一瞬みせた烈火の如き激しい怒りに気づき、なっちゃんは意外そうに瞬きする。


 だがすぐに少女は可笑しそうにクスリと微笑み、親しみ込めた眼差しでレナを見つめていた。

 一方でレナは少し取り乱した――と、咳払いした後、照れ隠しのようにはにかんでみせる。

 

「ま、そういう訳。なんとか上手くいって、あの変態野郎の息の根を止めることはできたけれど、私もその後……ね?」

「あ――」


 伝承ではマダラメを倒した僧侶も、その一週間後に全身腫物ができて命を落としたとなっていたはずだ。

 それじゃあ、やはり伝承通り彼女は――

 

「それってマダラメの呪いか何かだったの?」

「いいえ、ちょっと違うけれど、当たらずとも遠からず、といった感じかしら」

「どういうこと?」

「この地で流行ったっていう病にかかってしまって。実はそれもマダラメが生み出したものだったんだけど」

「そんな……それって――」

「そ、あいつの自作自演」


 古城に乗り込んだ際にレナはその証拠を発見していた。

 計画の詳細を記した彼の日記と、病原菌の入った薬瓶を。

 どうやらその時に、感染してしまったのだろう。

 見事彼を倒して、村に戻った彼女が罹患した事に気づいた時は既に手遅れだった。


 つまりマダラメはこの地で研究を始めるにあたり、自ら流行り病をばら撒き、そしてそれを治すために訪れた良き魔法使いを演じて、自分の立場を確立したことになる。

 どこまで最低な奴なのだろう、見下げた屑だ。

 話を聞いていたなっちゃんは、消えかけていた憤りという感情を鮮やかに顔に浮かべ、唇を噛み締めた。

 少女の憤りを感じたのだろうレナは、しかし苦笑を浮かべながら首を振る。


「でも後悔はしていないわ。それなりに楽しい人生だったし」


 人に誇れるような道を歩んで来たわけでもないし、多少の後ろめたさもあった。

 もし病死しなくても、どうせいつかは詐欺がばれて、獄に入れられ縛り首――そんな結末だっただろう。

 それに自分のためにした事とはいえ、最後の最後でほんの少しだが人の役には立てたようだし、やはり後悔はない。

 改めて自分の生涯を思い返し、彼女は長い髪を掻き上げると闇を見上げて双眸を細めた。

 だからこそレナは少女へ問いかける。

 このままで貴女はいいのか?――と。


「悔しくないの? あんな独りよがりで、自分が好きなら相手も好きだと勝手に思いこんじゃう下種野郎に、貴女はいいようにやられてるのよ?」

「でも、どうすれば……」


 嫌でも私が見えるようにすればいい――

 彼女は言っていた。

 そんなこと、妄信的なまでに目の前の女性を慕い追い求めているあの変態相手にできるのだろうか。

 

「――私は私、貴女は貴女……違う?」

「……レナさん」

「その身体は貴女のもの、ナツミ=チハラのものでしょ? マダラメあの変態のものでないし、勿論私のものでもないわ」


 途端、自信なさげに表情を強張らせたなっちゃんを見つめ、レナは優しく微笑む。

 それはあのホルン村の一室で見上げた、肖像画にあった僧侶が浮かべていたものと同じだった。

 

「ガツンと教えてあげなさい。貴女の身体を自由にできるのは貴女だけなんだってことを。そうすればあのド変態も貴女が見えるはず」


 そして歪んだ妄想の果てにあいつが生み出した、レナの幻想をぶち壊してやって――

 そう付け加えたレナの瞳をじっと見つめていたなっちゃんは、やがて何かに気づいたようにはっと目を見開く。

 クスリと笑ってレナは無言で頷いた。

 

「それでもあいつが……見てくれなかったら?」

「その時はその時」

「?」

「口で言ってわからないんだったら、身体に教えてあげるしかないでしょ?^^」


 そう言って、レナはひょいっと右手をあげると胸の前でスナップを効かせて横振りしてみせる。

 平手打ちビンタってこと? あの死神に?――

 まとめ役の少女のように目をぱちくりさせて、なっちゃんはレナの顔を凝視してしまった。

 

「何よその顔? 私はそうしたけど」

「嘘、本当にやったの?」

「ええ、思いっきり引っぱたいてやった。もう我慢の限界だったから」


 ぶべらっ!?――と、言葉になっていない悲鳴をあげて、大きな紅葉を頬に作りながら吹っ飛んでいったマダラメを思い出し、思わずレナはクスリと笑う。


「旅の聖女なんて程遠いわ、ホルン村の人があなたのことを知ったら、きっと腰抜かしちゃうかも」

「だから言ったでしょ? 伝承なんて信じるものじゃない――って?」

「そうね、アハハッ――」

「フフフ――」


 姉妹のような二人の『ナツミ』はお互い顔を覗き込んだ後、たまらず声をあげて笑い出した。

 一頻り笑った後、なっちゃんは目尻に溢れた涙をそっと指で救うと、大きく一度深呼吸をしてレナを見る。


「私……諦めたくない。あいつなんかにいいようにされるのは嫌」

「それは私も一緒よ。貴女の身体なんて欲しくないわ。あいつの顔を拝むのも絶対御免」


 頭の中でマダラメの顔を思い出してしまったらしく、思わず身震いしながらレナは、うえっ――と可愛く舌を出した。


 刹那。

 僅かな光が頭上を照らし始めるのに気づき、少女は双眸を細めながら上を見る。

 それは本当に仄かで心細い、黄昏時の明星のような光であったが、闇の中に佇んでいた彼女には希望の光に感じられた。


 そしてその光の先から、微かに聞こえてくる覚えのある旋律――

 やはり弱々しく、今にも途切れそうであったが、それは足掻き、抗うようにして確かに鳴り響いていたのだ。

 神器の使い手は諦めが悪い――まさしくその言葉を表現するように。


「みんな……」

「そうだったわね、私と違って貴女には仲間がいたんだった」


 同じくその光を見上げながらレナは呟く。


 身体は透けてきている。

 感情も欠けてきている。

 もう間もなく、この身体から私は消えてなくなるだろう。


 けれど、そう。今は私の身体だ。

 消える寸前まで私の身体だ。


 私は私、誰のものでもない。



 私は、まだ……諦めない!――



 光を見つめる少女の瞳は、再び闘志を燃やし始めていた。

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