占い

「信じてない」

僕は、そう言った。

「つまんないよね、そういうところ」

紗弥のその台詞は、わざとだろうか。そういうけしかけられるような台詞を受けると、どうしても僕はムキになる。

「統計学の何に期待しろっていうんだ?」

僕は海外ドラマのような大袈裟な身振りをしてみせる。


「そもそも、そんな手相で人生決められるくらいなら、僕は今すぐにでも死んでやる。そんな決められた人生が面白いわけがないだろ」

僕は、語気を強める。

「占い師が分かるような未来なんて、来てもらっても困るし。そんな、予想通りの行動しかできない僕に、価値なんてない」

「なに、そのとがった発想」

「いやいや、とがって生きていかないと」

人間として生まれてきた意味がないだろう、という言葉は飲み込んだ。その言葉をわざわざ音声にしてまでその場にいる人々の気を悪くするほど、僕も馬鹿ではない。

「で、急になんでまた」

「あのね、最近よく当たるって言われている占い師さんがこの辺で今、出張で店構えているんだって」

「へぇ」

「少しは、興味ないの?」

「人気のある人なの?」

「それがもう、よく当たるらしくって」

「何を占ってもらうの?」

「うーん、恋愛運かな。結婚はいつできますか、とか」

「あなた、恋愛において、大きな転機が19歳の時にあったはずなんだけど、どう?」

「どうって…あっでも、19の時なら、裕と別れるかどうか、真剣に悩んだ時期かも」

「今の彼氏は悪くないし、あなたの良き理解者だけど、もしかしたらいい人に出会えるかもしれない。そう思ってる」

「そうね、そんな感じ」

僕は珈琲に映る自分の顔を見つめる。

「25.25歳の時に、あなたは大きな選択を迫られることになる。その選択を間違えれば、あなたの婚期は随分変わる。この選択を間違えなければ結婚は28歳。それを逃すと、あなたは30代の後半まで結婚から遠ざかる。今の彼のことをもっと、よく知る努力をしなさい。彼のことをもっとよく知ることで、自分に足りないものをよく見つめなさい。そうすれば、あなたは今後絶対うまくいく」

僕はそこまで言って珈琲を飲む。

「なに、それ」

「あなたの年齢、性別、職業。彼との状況。あと、なにか占星術的な数字で割り出した占い結果。行ってみればいい。大体、そんな感じで言われるから」

「…あんたのせいで行く気なくした」

「それは残念」

僕は珈琲をまた一口飲んで呟いてみる。

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