後悔すること

 僕が珈琲の最後の一口を飲み干すところだった、と思う。


 あいつはそれまでの話からなんの脈絡もなく僕に問うてきた。


「お前、後悔したことあるよな?」


 僕はカップを置きながらそれはもう大層、といったふうに頷いたはずだ。


「これからは、生きていくなかであまり後悔はしたくないだろう?」


 また僕は小さく強く頷く。


「じゃあ、いいことを教えておいてやる。やった上での後悔なんて、たかが知れてんだ。三日もすりゃ笑い話になる。でもな、やらずして背負う後悔はずっとついてまわるんだよ、あの時やっておけばよかったってな。じゃ、珈琲ごちそうさん」


 そう言って颯爽と店を出ていったあいつを僕は目で追った。あいつは振り返ることはしなかった。


 ***


 それからあいつには会っていないが、最後にあいつが放ったきざな捨て台詞だけはやけに鮮明に僕のなかに根付いている。


 わずか三百円足らずでいいことを知ったと、僕はまだその時のレシートを財布のなかで眠らせている。

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