爪を噛む
また爪を噛んでしまった。
おもわず周りに目を配るが、他人は隣の客の一挙手一投足に気を配っていない。見られていたところで、口うるさく後ろ指を差されるものでもない。
爪を噛む、ストローを噛む。なにかを無意識に咥える、噛む。
愛情が足りていない証拠だ。母乳を飲んでいた頃の感触をどこかに求め続けている証拠。
小学校なんかでは爪を噛んだりしていると、行儀が悪いとよく叱られる。
一番の原因は日頃の欲求不満なんかではなく、幼少期の親からの愛情が少なく育つせいらしい。
噛んでいた爪からは血が出ていた。わずかな箇所から、強く鋭い痛みが走る。私は思わず顔をしかめる。
私にとって爪の痛みは、片親で育った苦しみだった。
また爪を噛む。白い爪を無くすように。不安を取り除くように。それによってなにかが変わらなくとも。
私はまた爪を噛む。
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