幻想と書いて夢と読んでみせる

 紗弥は、突如レポートから顔を上げ、言った。

「ねぇ、宇宙人が攻めてきたら、どうする?」

「死ぬ」

 反射的に答えた僕に、紗弥はため息をついてみせる。

「なにそれ。逃げ惑おうよ、せめて」

「『この星はっ!俺が守るっ!』って言うかな」

「お。それから?」

「いや、何もしない。言うだけ言って、死ぬ」

「いや、だから、なにそれ。せめて、言った分の仕事はしよう?」

「『この惑星ほしはっ!俺が護るっ!』かな」

「何が違った?」

「漢字。星はスターじゃなくて、惑星って書こうかなって。あと守るじゃなくて、守護の護にしようかなって」

「どういうこと?」

「熟字訓みたいなやつ。本来そんな読み方はしないのに、むりやり熟語に読み仮名をつけているやつ。思春期に、カッコいいと感じるやつ、見たことあるでしょ?」

「…漫画じゃないんだから」

「地球もいいな。『この地球ほしはっ!俺が護るっ!』ってどう?」

「言い方一緒だから、まったくもってどちらがいいか判別できない」

「『この宇宙そらの平穏を乱すやつは許さないっ!ここでお前を倒してっ、この事件を幻想ゆめに変えてやるっ!くらえっ超銀河天槌炎砲スーパーギャラクシーミサイルファイヤー!』

「…なに、厨二病発症したの?」

「今は、どこが変なふりがなのものだったでしょう」

「今のも、あったの?」

「そりゃあ、もちろん。あるに決まっているじゃない」

「『もちろん』ではないと思うのだけれど」

「ほら、どこが変なふりがなだったでしょう。漢字も併せてお答えください」

「宇宙と書いて、そら」

「正解、他には?」

「最後の、なんか長い技」

超銀河天槌炎砲スーパーギャラクシーミサイルファイヤー?」

「えっと?超銀河、ミサイルってなに?」

 僕は、テーブルに指で漢字を書きながら解説する。

「天に槌。天を打つ、みたいな意味。天槌って言葉自体はあるのか知らないけど、まぁカッコよければ何でもいいじゃん」

「問題として出すくらいならせめて、もう少しちゃんと考えてくれないかな?」

「カッコいいから。だって、本来勝手になんでも言葉を付けられるのが、この遊びのいいところでしょ?」

「まぁいいや、で、ファイヤーは炎だから、超銀河天槌炎?」

「惜しい。ファイヤーは炎に、砲台の砲。なんか、打つっていう感じでいいでしょ?」

「即興で考えたにしては、細かいのね」

「ねぇ、もう一つあったんだけど」

「えー、もうわかんないし。あなた、自分の恥ずかしい台詞をよくそこまで解説できるよね」

「正解は、幻想と書いてゆめと読んでいる、でした」

「うん、そっか。でも、その台詞言っても、何もせずに死ぬんでしょ?」

「もちろん」

「もう少し、なにかいい答えを期待したのだけれど」

「それが、僕の幻想ゆめだから」

 僕はコーヒーカップを持ったまま、彼女に微笑んでみせる。彼女は呆れた、と言わんばかりに大きなため息をついた。

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