無人島にひとつだけ
僕は喫茶店にて、僕の隣の席に居座って楽しそうに大声で会話をしているカップルの話に耳を傾ける。むしろ集中しようにも聞こえてくるのだが、僕から耳を傾けたことにでもしなければ、耳障りすぎて気分が落ち着かない。
「無人島になにかひとつ持ってけるとしたら、優くんは何もってく?」
「んー、ナイフとか?あったら便利じゃんね」
「えー、私じゃないの?」
「お前は、俺と一緒に行くんだろ?」
「だとしたら、二つ持ってけるねー。じゃあ私、ジェット機持ってく!」
どう聞いても、頭の悪いカップルの会話だ。世間が言うところの非リアである僕は、反吐が出そうになる。しかし、僕はこの会話の主題には興味を持った。
無人島にひとつだけ。
たったひとつだけ持っていけるとしたら。
ナイフであったり、ラジオであったり。聞いてみれば、青い某未来の猫型ロボットのひみつ道具をあげる人もいるだろう。過去、僕の友達にはインフラ設備だと答えた人間がいた。彼は無人島に文明を持ち込む気でいたらしい。
ナイフ?便利ではあるけれど、できることは限られる。特に、僕のような非力な人間は、ただ怪我をするだけだ。
ラジオ?電波が届かないところであれば、使い物にすらならない。
釣り竿?逆にそれだけでいいのか。それほどまでに、自分の釣りの腕に自信があるのだろうか。
ジェット機?それを、どうやって「持っていく」というのだろう。
一個一個可能性を潰していくのも骨が折れる。
そこでまず、可能性を考える。
一番に必要なのは水と食糧である。最低限、生きるには欠かせない。
水の確保。淡水の川が流れていれば確保できる。しかし川さえも流れていなければ、海水を濾過する他ない。火を起こして海水を蒸発させ、上手いことなんとかやれば水と塩を分離させられる。
食糧なら魚だったり木の実だったり、食べられるかどうか確かめたならいけるだろう。
じゃあ、なにを持っていけばいいのか。
僕も僕なりにこの答えを考えた。
社長令嬢だ。しかも、ちゃんといいところの。
理由を簡潔に言おう。人質だ。
社長令嬢であれば、万一の漂流などで無人島に流されていたとしても大金を払ってでも探しに来る可能性が高い。しかも無人島生活の間その子を大切に扱っておけば、僕に助かった後に感謝されてお金的な報酬だとか、なんらかの利益を得るだろう。もしかすると吊り橋理論で将来も安定するかもしれない。
なにより、ひとりでの生活よりも相談相手という意味でも話し相手という意味でもだいぶん楽になる。
......最悪の場合、食糧ともなる。
無人島にひとつ持っていく、と言った時点でなぜか、大半の人間はそこで暮らそうと考える。帰ればいいのだ、すぐにでも。まず、脱出を考えることが最優先事項だろう。少なくとも、僕にとってはそれが何よりも重要だ。
無人島には社長令嬢さえ持っていければそれで十分だ。その社長令嬢が、多少なりとも可愛くて胸が大きければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます