第24話 ……え? 本当に僕達だけで助け出すの?

 別人ではないかと期待して何度も何度も確認する。


【ちょっと! 私は神様に興味はあっても神様になりたいわけじゃないのよ! も~! って、何これ放送してるの? ちょっと! ノーメイクが売りだけど髪のセットぐらいさせ……】


 映像は途切れた。だが、間違いない。赤色さんだ。何時もの元気そうな様子にこんな状況だがちょっと僕は安心した。


「元気そうでよかったかしら」


 天継さんもちょっと安心したみたいだ。いつの間にか何時ものコップに日本酒を入れて飲み始めている。


「あの襲撃。【残り火教】とやらは赤色君の誘拐が目的だったのだよ。いささか過剰な戦力だと思ったが。木森きもり 源水げんすい。あいつはランド君の恐ろしさを知っているからね」


 いつの間にかなみなみと注がれたワイングラスを口に運ぶ。


「ふん……二度目は絶対にないのです」


 カクテルグラス以下略。

 みんな赤色さんの様子を見て調子を取り戻してきたみたいだ。

 あれ?


「百目鬼さんはどうしたんです?」

「この事は話してないのです。家に先に帰ってもらいましたのです」


 なるほど。

 僕もちょっと落ち着く事にした。冷蔵庫の中からコーヒーの粉を取り出す。お湯を沸かし熱湯になったところで少し待つ。そのままだとコーヒーの油成分が溶け出し味が落ちてしまう。一、二分さましたところで豆にお湯を回すように注ぎ込む。僕の好きな香りが鼻孔をくすぐり出す。


「警察……いや、軍の赤色さんの救出を待つという事でいいんでしょうか?」


 カップにコーヒーを注ぐ。


「ん? いや。それは無理だ。とっとと我々で助けだそう」


 カップからコーヒーを注ぎ落とした。


「助け出す!? 衣良羅義さんがですか?」

「はっはっは。いくら私でも一人では無理だよ。天継君やランドちゃんにも協力してもらうよ」


 ……何を言っているか解らない。いや解るのだが、なぜそうするのかが解らない。


「お国に任せていれば解決が何時になるか解らないからね」


 衣良羅義さんがテレビの方向に指をさす。いきなりものすごい勢いで逆再生される。


「これを見たまえ」


 TVが普通の速度で再生され始めた。ずらりとそこには破壊された装甲車の山々……。空回りするタイヤ、燃え上がる炎、飛び散る火花……


「え……なんですかこれは」

「国が早期解決を目指したのですが、返り討ちに遭ったのです」


 じと目でテレビを見ながらランドちゃんが答える。


「国もある程度、木森の動きを予測していたかしら? でもその予想の上をいかれたみたいかしら」

「ここまでこてんぱんにやられると国も次に腰を上げるのが遅くなる。赤色君の救出なんてそれこそ何年後になるかわかった物ではない」


 衣良羅義さんは一気にワインを飲み干した。


「とっとと我々が救出してコミケを再開させようじゃないか」


 小鳥のさえずる声。冷たく冷やされた空気が窓からまだ微弱な朝日とともに入ってくる。洗面所で歯を磨いて顔を洗う。色が少し落ちてきてはき慣れてきたジーンズを身につけ。長袖のシャツに手を通す。


「朝ご飯できたかしら~」


 僕は返事をして、テーブルの前に座り天継さんとパンと卵焼きとソーセージのシンプルな朝食を取る。天継さんはいつも通りセーラー服。長い丈のスカートにしわを一つつけずに正座する様子はお見事だ。

 チャイムが鳴る。


「天継姉様、おはようございます」


 ランドちゃんだ。いつも通りのランドセルを背負ってのゴスロリの姿。だが、何時もよりはシンプルな服にも見えた。何より赤を基調にしているのは初めて見る。


「ランドちゃん。おはようかしら~ それじゃ出発するかしら」


 天継さんが玄関先に出る。僕は後からついて行く。階段を降りていくと天継さんの車が道路の前にすでに準備されているのが見える。エンジンもかかっていて暖機されている様子がわかる。僕達三人は車に乗り込み出発する。


「やあ。準備はいいかね?」


 聞き慣れたバイクの音が後ろから聞こえたと思ったら、すぐ横に衣良羅義さんがスズキのバイクで併走し始める。天継さんはひとしきり頷いた後、車を加速させた。それに合わせて衣良羅義さんのバイクも加速する。

 僕達は向かう。赤色さんがいる場所へ。【残り火教】とやらがいる場所へ。

 ……え? 本当に僕達だけで助け出すの?

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