第9話 はははは、ただの4人乗りバイクだよ?

 ゲームを終了し僕たちは家に帰ってきた。衣良羅義さんは「ホンダは敵だ!」などと謎の言葉を発しながらバイクを発進させて帰っていった。僕はSIMシステムで適当にニュースをみたり、所得する免許について調べたりしながら時間をつぶしていく。そうこうしている間に夜になったようだ。このアパートは窓が少なく、もともと外の明かりが入ってきにくいので周りの雰囲気から時間を知るのは難しい。天継さんが外に買出しに行っている間、僕は赤色さんと二人っきりになった。


「お風呂、沸いたみたいだからはいってくるねー」


 赤色さんが風呂場の脱衣場に入っていく。ごそごそと服を脱ぐ音が聞こえてきて、僕は照れくさくなる。突然、脱衣場のドアが開いて、赤色さんが顔を覗かせる。


「一緒に入るー? いひひひひ」


 僕の顔はみるみる赤面していく。僕をからかった後、そのまま赤色さんはお風呂の中に入っていったようだ。鼻歌が聞こえはじめた。ご機嫌そのものだ。突然、周囲が真っ暗になる。小さな窓からはすでに外光は入ってこず、家の中の明かりもすべて消え去ってしまった。? 停電? 突然、ものすごい悲鳴が響き渡る!


「きゃあああああああ ああああああああ いやああああああああああああ!!!!!!!」


 誰の声かわかるまでに少し時間がかかった。赤色さんの声だ! 風呂場から聞こえる!


「やああああ やあああああああああああ! あああああああ!」


 悲鳴を聞いただけで僕は体の芯から震えてしまった。明らかにただ事ではない。僕はほっぺたをたたいて、気合を入れ直し風呂場に駆けつける! 足元の何かに躓くがそんなことを言っている場合じゃない! 脱衣場のドアを開けて、赤色さんの名前を呼びながら僕は、風呂のドアを開けた! 中からドスンとすごい音がする。


「赤色さん!?」


 名前を呼んだと同時に、僕は強い衝撃をうける。その感触は柔らかく、がちがちにこわばっている


「あああああああああ! 怖いよおおおお! 怖いいい!!! ああああああああ!」


 暗闇で何も見えないが、赤色さんが抱き着いてきたのだ。普段の様子からは想像もつかない様子に僕はパニックになりかける。


「どうしたんですか!? 赤色さん! 赤色さん!」


 問いかけても問いかけても、赤色さんは叫びながら強くしがみついてきた。どうすればいいかわからず僕まで泣きそうになってきた。


「赤色! 大丈夫かしら!?」


 天継さんの声だ! 同時に僕らを光が包み込む。天継さんの右目から明かりが照射されている! そういえば天継さんは右目に何かを埋め込んでいることを思い出した。赤色さんは天継さんの方に足元をふらつきながら近づき、今度は天継さんにしがみつき始めた。天継さんは赤色さんの頭を優しくなでる。


「よしよし、もう大丈夫かしら~」


 赤ん坊をあやすように天継さんは赤色さんをなだめる。ゆっくりと赤色さんは落ち着き始めた。ライトで赤色さんの裸体が視界に入ってきたが、僕は冷静にゆっくりと風呂場を後にする。

 停電が復旧するまで30分ほどかかった。後から聞いた話だ。赤色さんは暗所恐怖症らしい。


「ふんーふんーふんー♪」


 赤色さんは化粧台の前でおめかししている。昨日のことが嘘のようにご機嫌だ。というのも今朝、衣良羅義さんから全員で食事に行く連絡があったのだ。青色のブラウスに白いズボンと赤色さんらしいシンプルで元気な服装だ。口紅を塗っていつもより少し色目かしい。ポニーテールをしばり準備完了。こうしてみると、やはり赤色さんはすごく美人でかわいい。天継さんは首に金のネックレスを付けている。黒髪との相性がよくそれだけで整った顔立ちがより一層、美人に際立たせている。服は相変わらずセーラー服だが。男性はネクタイ必須とのこと。また、天継さんと赤色さんが僕の服装をめぐって論争を繰り広げる。その結果。上半身はジャケットにネクタイ。下半身は半ズボンという結果になったようだ。もはや突っ込みも抵抗もあきらめて大人しく僕は従った。


(準備はできたかね?)


 SIMシステムによって視界に衣良羅義さんのメッセージが届く。僕たちは返事をして外に出た。外にはバイクに乗った衣良羅義さんが……


「なんですかこれ?」


 見たこともない形をしていたバイクがそこにあった。スクーター型というのは解るのだが、妙に縦に長く座るところが二か所ある!?


「はははは、ただの4人乗りバイクだよ? 早く座りたまえ。ああそうか、昔の日本では禁止だったね4人乗りは」


 僕たちはそろってバイクにまたがった。


「ではいざ行かん! ビッフェに! ははははは! やはりスズキのエンジンは素晴らしい!」


 衣良羅義さんは「ヤマハは敵だ!」と謎の言葉を発しながらバイクを発進させた。


 都市街。それなりの高さを持った高層ビルが立ち並び、大きな道路に歩道橋。人通りも多い。


「わー」


 僕は思わず呆気にとられながらその光景を見る。大きな歩道はすべて動く歩道になっている。ビルの形や色はまばらだが、歩く歩道は透明なガラス状の手すりに、不思議なことに汚れがない真っ白の床でできていた。ようやく未来らしい風景に僕は感動を禁じ得ない。

 全員バイクを降りて集合地点まで歩いていく。そこにはランドちゃんと着物姿をした百目鬼さんが待っていた。百目鬼さんは一礼をしたあとランドちゃんの後ろに隠れてしまった。


「こんにちは天継姉様」

「こんにちは! ランドちゃんかしら~」


 相変わらずランドちゃんは天継さんには愛想がいい。見るとランドちゃんはいつものゴスロリ服にやはりランドセルを背負っている。この前、不機嫌にさせてしまったようなのでランドセルについて触れることはやめておこう。


「ふふふ、みんな集まったようだな! まず先に現状を確認しておこう!」


 衣良羅義さん場を仕切る。


「諸君! まず我々は金が無い! そこの万年貧乏性の赤色君も金が無い! 年がら年中世界を飛び回り旅費や装備に散在する天継君も無い! 東雲君にいたっては論外だ!」


 ひどい言われようだ。


「だが、安心してほしい! 我々には今日、素晴らしいスポンサーがいる! 傭兵にして豪邸に住みメイドを雇うお嬢様! 萌月君という強力なスポンサーが!」

「私は天継姉様と百目鬼にはお金を出しますが、その他は知らないですよ?」


 ……ランドちゃんの一言で衣良羅義さんは沈黙した。その場の空気も何やら重苦しくなる。気のせいか風が吹いて肌寒い。


「えー! ランドちゃんいじわるー! ものすっごく楽しみにしてきたのにー! どけちー!」

「知らないのです」


 赤色さんが異議を唱えるも、ランドちゃんは一言でかわす。

 え? じゃあどうするの?

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