第22話 カメラの紐

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 これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。



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 工事現場で作業している。


 偉い人………多分上司というより会社の社長だろう。その人が僕に指示を出す。


「そこの足場から写真撮ってくれ。早くな!」


 僕は首に下げたカメラを手に、慣れた足場を歩く。


 慣れたと言ってもすぐ横は何もない空間で、足を踏み外したら落下して一巻の終わりだ。


「急げよ! 左官屋さんがきたら撮れなくなる!」


 偉い人は怒鳴ってくるが怒っているわけではない。


 工事現場の騒音がひどいので声を張らないと聞こえないのだ。


 僕はできるだけ急いで足場を渡った。


 だが、施工状態をカメラのフレームに収めようとした時、猛烈な勢いで背中を後ろに引っ張られた。


「!!」


 本来足場のどこかに安全帯を引っ掛けておくものだが、急いでいたので付けていない。

 さらにこの足場は組み途中で、体を支えてくれるものはなにもない。


 落ちる。


 体がふわっと浮く感覚。


 だが、首から下げていたカメラの紐が足場に絡まってくれたおかげで落下しなくて済んだ。







 気がついたら僕は病院にいた。


 だが、ベッドに横になっているのは僕ではなく社長だ。


「健康ですね。異常なしです」


 医者が言うと、社長は安堵したように「ほらな。なんでもないんだって」と家族に向かって笑みを浮かべていた。


 奥さんと娘さんは、それでも心配そうな顔をしている。


 なぜなら社長の全身がなにやら黒いのようなものに包まれて見えるからだ。


 それは見える人と見えない人がいるらしく、社長と医者には見えていない。


 僕はニッと笑った。


 奥さんと娘さんは引きつった顔をした。

 なるほど、この二人には僕が見えているのか。


 僕は足場から落ちなかった。


 だけど首に巻き付いたカメラの紐は、僕を絞首刑にするように吊り、気がついたら僕は黒いのようになって、社長と一緒にいる。







 自分の形をしたの、どす黒く、醜い笑みを見た瞬間、目が覚めた。


 いつも悪夢を見た時に僕のそばにいた飼い猫のクゥはもういない。


 20歳の天寿を全うしたから。


 そういえば前日まで出張で家を空けていたけれど、妻が「仏壇が勝手に開いた」と報告してくれた。


 2月25日はクゥの命日だったけど、忙しくて線香の一つも立てていなかった。


 これはクゥが見せた悪夢なのか。それとも………。


 僕は仏壇に手を合わせた。


 振り返ると、三匹の猫がいる。


 クゥが亡くなってからもう二度と猫を飼うまいと思っていたのに、矢次にうちの近くにやってきて野良猫たちだ。


 彼らを拾い、うちで飼うようになってから野良猫の姿は見なくなった。


 猫は死ぬ時、飼い主のもとに次の猫を送り込む習性でもあるのだろうか。


 ただ、この三匹はまだ、僕の悪夢を祓ってはくれない。

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