第21話 検索してはならない
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これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。
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久しぶりに悪夢を見た。
舞台は中学校だろうか。
僕のいた学校ではない。
教壇には教育実習生の女子大生がいる。
整った顔立ちはしているが十人並みで、これといった特徴のない人だ。
そんな彼女は今日、授業補佐ではなく、ソロで授業をするらしい。
教科は国語のようだ。
不届きな生徒は教育実習生を舐めているし、本当の担任も見ていないので生徒たちはスマートフォンを取り出していじったりして、話を聞いていない。
もちろん僕が中学生の頃スマホなんてなかったから「これは夢だ」とすぐにわかった。
しかし、夢の中でも自由に行動できる時と、まるでテレビドラマを見ているような第三者視点で、なにも干渉できない時がある。今回は後者だ。
教育実習生は何度かスマホをいじる生徒を注意したが聽いてくれないので、授業のやり方を変えてきた。
「私は北海道出身なんですが、同級生の話をしたいと思います」
突然そんな話を始めたので、みんなが注目する。
「同級生は病気でずっと家にこもっていました。そんな同級生が書き残した辞世の句が話題になり、テレビでも取り上げられたことがあります。どうせスマホ使って遊んでるんだから、それを検索してみてください。同級生の名前は【かけふ のののの】です。珍しい名前だからすぐにヒットするでしょう」
僕の本能が「検索したらダメだ」と訴えてきた。
その名前の響きが、やたら恐ろしく感じる。
調べたら最期だ、と何かが囁いてくるような気がする。
だが、検索しなくてはならない。
教育実習生から発せられる圧が半端ない。睨んでいるわけでもないのに瞬きもせず、じっとこちらを見ている。検索しなかったらどんなことを言われるか、どんな目に合わせられるかわからない─────そんな圧力を感じるのだ。
かけふ のののの
検索した。
画像はすぐに出てきた。
木造の、まるで山奥の炭焼き小屋のような現代の住居としては古すぎる建物。
その木板のような外壁に、釘かなにかで引っ掻いたような文字がある。
なんで気が付かなかったのか。
「辞世の句」と教育実習生は言った。
この世に別れを告げることを「辞世」と言う。
人がこの世を去る時(まもなく死のうとする時など)に詠む詩の類のことだ。
つまり教育実習生の言う同級生は、それを書き残して亡くなっている。
病気か。それともいじめで引きこもった挙句、自害したのか。
その理由が辞世の句に書いてあるのだろう。
おかしな点はもう一つある。
「家にこもっていた」はずの同級生の辞世の句がどうして外壁に書いてあるのか。
答えを知るには読むしかない。
だが、読めない。
まるで読めない。
いたずら書きが小屋の至る所に上書きされて、その同級生が描いたとされる辞世の句は読めなくなっていた。
心霊スポットの廃墟に落書きするかのように、辞世の句が有名になったせいで地元の悪ぶったガキどもが集まってこの小屋をメチャクチャにしてしまったのだろう。
「なんでこんなもの検索させたんだ」
「胸糞悪い」
「こんな画像しか出てこないってのは事前に調べた上でやってるんだろうな」
「思いつきで授業してんじゃねぇよ」
生徒たちは教育実習生を罵倒した。
僕以外のみんなには何が書いてあるのか読めているのか?
それともこの落書きに怒っているのか?
「みんな、検索しましたね?」
教育実習生は生徒たちのヒステリックな罵倒を無視して笑みを浮かべた。
やはり、検索しちゃいけなかったんだ。
この教育実習生の名前、なんだった?
かけふ…………
ここで目が覚めた。
目が覚めて、久しぶりに悪夢を見たメモを取り、生唾を飲む。
かけふ のののの
検索するべきか、否か。
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