第18話 無視

 これは怖い夢というより、嫌な夢というべきか。





 クラスで、誰もが自分を無視する。


 声をかけても、肩を揺さぶっても、僕がここにいないかのように無視している。


 いじめではない。


 いじめなら邪険にされたり、目を合わせないまでもこちらに対してなんらかの「意思」が見える。


 だが、みんなまったく僕のことを認識していない。


 まるで自分だけが別の次元にいるかのように、だ。


 机を強く叩いたり、黒板を強く叩いたり、しまいには通りすがりのクラスメイトの頭を強く叩いたりしたが、誰も見向きもしない。叩かれたやつだって蹌踉めいたのに平然と笑顔のまま席に戻っていく。


 いまなら女子にどんな悪戯でもできる!というゲスな考えは浮かばなかった。誰からも認識されていない恐怖は想像を絶するものだったのだ。


 それに誰からも認識されていない空間で、僕を認識しているアレはなんだ。


 黒い女子がいる。


 制服と長い髪のようなシルエットで「女子」だと思うが、わからない。


 制服以外のすべてが影のように漆黒で、わかるのは微動だにせず白い歯をむいて笑っている口元だけだ。


 それは僕を認識して教室の隅からこちらを見ていた。


 目があるわけではないが、体の向きからして、僕を追尾しているのは間違いない。


 先生が入ってきた。


 僕はこの先生が嫌いだ。


 生徒を『お前はこういうやつだ』と決めつけて接するタイプの嫌な男だ。


 先生が教壇に立つと、クラスメイトは全員着席していた。


 黒い女子生徒は座っていない。


 僕は、認識されていないけど自分の席に座ることにした────けど、空いている席がない。


 ここは僕のクラスだ。


 誰が僕の席に座っているんだ。


 誰か知らないやつが、この黒い女子以外に紛れ込んでいるのか。


 もしかしてそいつのせいで僕は認識されていないんじゃないのか?


 わからない。


 誰だ。


 誰が紛れ込んでいるんだ。


 一人ひとり顔を見ていく。


 いつの間にか隣りにいた黒い女子も、白い歯でニタリと笑った顔のまま、俺と一緒にクラスメイトの顔を覗き込んでいる。


 黒い女子が一人の女子を指差した。


 知らない。


 誰だこいつ。うちのクラス、いや、学年にこんな子いたか?


 たった4クラスしかないうちの学年で知らない顔なんて居ないはずだ。


 黒い女子は知らない女の首に手をかけた。


 ボキッという音がして、知らない女の首が反転したところで目が覚めた。





 あの首が反転していた女、どこかで見たことがあった。


 けど、思い出せない。


 あの黒い女子、顔は全くわからなかったけど、こちらもなにか記憶がある。


 たぶん怖い存在ではないはずなんだけど、思い出させない。


 もやもやする。

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