第16話 首を振る

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 これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。


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「ホラー映画でさ、インタビューかなんかでビデオに録画した女子高生の姿が巻き戻して再生するたび変わっていくってのがあったの覚える?


 収録ではちょっと首を横に振っただけだったはずなのに、録画したやつを確認するために再生し、巻き戻してまた再生、さらに巻き戻して何度も見ていくうちに、頭の振りが大きくなっていってさ。


 巻き戻して再生していくうちに髪もボサボサになって、顔なんか見えないくらいブンブン首振って、最後はスローでじっとこちらを睨みつけるってやつ。


 あれやってみない?


 どうやるのかって、ほら、こうやってさ。


 首を振るの。


 うまく髪の毛がボサボサになるようにさ。


 もっと振ったほうがいい?


 こう? こう?」


 そうやって首を振った女の子の首がゴキッという音と共に折れた。


 女の子は折れた首を支えながら苦笑いした。


「やっぱ無理っぽい」


 これは夢だ。


 夢じゃなかったら、折れるほど自分で首を振れないだろうし、折れた後に平然としていられない。


 それにこの女の子、誰だ。


 知らない子だ。現実でも知らない子のはずだ。


 あぁ、夢の中だと自分の記憶が曖昧で思考能力が著しく落ちて、うまく考えられない。


「次、こうだっけ。ほら、腕をグリングリン回すの」


 女の子は両腕を狂ったように回転させた。


 肩の関節からボキッと音がして、左腕がすっぽ抜けた。


 思い出した。


 この女の子、姪っ子が持ってきた人形だ。


 まだ物心ついていない姪っ子は人形の扱い方が雑で、腕を引きちぎったりしていた。


 なるほど、その光景を見ていた僕は人形がかわいそうでこんな夢を見ているんだな。


 なんだ、怖くない。


 僕は腕を拾って女の子の左肩にくっつけた。



 女の子はスタッカートがついたような声を発した。


 その顔がひどく切り裂かれ、べろりと赤い中身が出てきた。


 その生肉のような断面に僕は悲鳴をあげた。











 起きて驚いたのは、僕の枕元に姪っ子が置き忘れていった女の子の人形が転がっていたこと。


 きっとクゥが持ってきて僕の隣に並べたんだと思う。


 そしてクゥは人形の何が気に入らなかったのかわからないけど、顔をずたずたに噛んでいた。

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