第12話 ずれた首の女
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これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。
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町で僕の前を歩く女の人の後ろ姿が綺麗だと思った。
白いワンピースで腰まである長い黒髪。
腰のベルトでウエストを細く絞って、だからこそ強調されるお尻のライン。
白い手足はすっとまっすぐ伸びていて、歩き方も上品だ。
だが、一つだけ。一つだけ違和感がある。
頭の位置がおかしい。
拳一つ分ほど左に頭がずれている。
首を傾げながら歩いているのではない。背中が曲がっているわけでもない。
体の中心よりも、肩に近いところから首が生えているのだ。
どんな顔をしているんだろう。
僕は少し早歩きして女の人の横に並ぼうとした。
だが、女の人に並べない。
あっちは早歩きしているわけでもない。僕が早歩きしてもめちゃくちゃ遅いわけでもない。
なのに、並べない。
いっそのこと。
僕は小走りになった。
ちょっと急いでます感を出しながら走った。
だが、女の人に並べない。
どうして!?
仕方ないので僕は女の人の後ろについて歩いた。
ずっとお尻を見ながら歩調を合わせて後ろを歩いた。
なんでこんなストーカーみたいなことをしてるんだ。
別に女の人の顔なんてどうでもいいじゃないか。
僕は女の人を追うのをやめて振り返った。
女の人がいた。
白いワンピースで腰まである長い黒髪。
腰のベルトでウエストを細く絞って、だからこそ強調されるお尻のライン。
白い手足はすっとまっすぐ伸びていて、歩き方も上品だ。
そして…………拳一つ分首が左にずれている。
もう一度振り返ると、今まで追っていた女の人も「まったく距離感が変わらず」そこを歩いていた。
やばい。
僕は道を変えるため、女の人の後ろを追いながら交差点まで駆けた。
ここを曲がれば「目の前の女」はいなくなる………そう思ったが、交差点のあらゆるところに女が歩いていた。
どの方向に、どう動いても、目の前に女がいる。
よく考えろ。
この町、この女しか歩いてない。
歩いて?
歩いているんだが一定の距離からこの女は動いていない。ルームランナーでその場に留まり続けて歩いているような感じだ。
「すいません!」
僕は女を呼び止めようと声を張り上げた。
しかし声は出ていない。
口は動いているのに声が出ない。
手を伸ばして肩を引こうにもギリギリ手が届かない。
ダッシュしてもフェイントしても、どうやっても女に触れることは出来ないし、呼びかけることも出来ない。
どうせならば、と、形のいいお尻に手を伸ばした瞬間、女はピタリと止まり、僕の手はお尻に当たった。
女が振り返る。町中の女達が僕を見る。
首の位置がずれた女達は、丸い木材みたいな顔だった。
木目が人の顔に見える、ただの木だ。
目に見える木目の黒い部分からどろりと血の塊みたいなものが落ちた。
レバー? 肉? とにかく血にまみれたドロリとした何かが「ぼた」「ぼたた」と連続して目元から落ちる。
僕はうわっ!と叫んで目が覚めた。
もう朝だった。
そして床にはバラバラになったフィギュアが落ちていた。
クゥが棚に乗って落としたんだろうそれは、白いワンピースを着た、買ったときからちょっと首の位置が擦れていたのが不満だった有名なアニメの美少女キャラクターだった。
けど、夢の中の「あれ」は黒髪だったし、顔も木目だ。これではない………はずなんだが。
とりあえず自慢のフィギュアを落して壊したクゥを叱るために起きるとする。
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