第11話 だめじゃない
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これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。
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淫猥な夢。
女の人の背中におんぶされて、田舎道を行く僕。
女の人の背中は柔らかくて、いい匂いがした。
今の僕は多分赤子なんだろう。
だけど性的な興奮を感じ、悶々としている。
なんでこんなに胸焦がすほど性的欲求に苛まれているんだろう。
そもそもこの女の人は誰なんだろう。
どうして僕は赤子なんだろう。
夢なのかどうか確認するために周辺を見るが、これが現実なのか夢なのかわからない。もしかしたら細かい「現実的ではないこと」が視界の中にあるのかもしれないが、今の自分の思考力は著しく低下しているので気がつかなかった。
きっとこれは夢だろう。
だったらなにをしてもいいや。
そう思った僕は、女の人の胸元に手を伸ばし、服の上から大きな乳房を鷲掴みにした。
ちがう。
これは、胸じゃない。
女の人の胸がこんなに角張っているはずがない。
まるで超合金のおもちゃに布をかぶせた上から触ったような、硬くてゴツゴツした、所々鋭角な部分も感じる人間の肌とは思えない胸だ。
「だ め じ ゃ な い」
女の人が振り返る────真後ろに首だけが。ぐりんと勢いよく。
顔つきは慈愛に満ちた眼差しの綺麗な女性だった。
だが、口が耳元まで裂けてサメのような細かい歯が並んでいる。
女の人は自分の胸を両手で隠した。
両手で。
僕は紐やリュックサックで背負われているのではない。なにかが僕の足、尻を支えている。もちろん今の今まで女の人の両手だと思っていたが、そうじゃないものに支えられている。
しかし今、女の人の両手はそのゴツゴツした胸を隠している。
じゃあ、おんぶされている僕の体を支えているのはなに?
「だ め じ ゃ な い 気 が つ い た ら」
女の人は真後ろに顔を向け、僕の顔に鼻筋をつけながら言った。
やばい。
ここはどこだ。
僕はどこに連れて行かれようとしているんだ。
性的興奮でラリっている場合じゃない、と本能が恐怖している。
橋が見える。
女の人の背中に隠れて見えないはずの橋が見える。
それを渡ったらダメだ。
逃げなきゃ!
僕は渾身の力で女の人の背中から離れた。
これは夢だ。赤子だとしても走れる。
だが、地面に落ちた自分は赤子ではなかった。
両手両足をもぎ取られたいつもの自分だ。
「だ め じ ゃ な い 逃 げ た ら」
這えない。
両手両足がないと身動き一つ出来ない。
女は背中から生えた虫のような4本の腕をワキワキと動かし、背を向けたまま迫ってくる。
そこで僕は叫びながら起きた。
そしてもう一度悲鳴をあげた。
クゥがなんともわからない虫の足を口から出していたからだ。
何食ってんだよ! 吐き出しなさい!
と、言ってもクゥは何も言わず、口から飛び出した足も飲み込んだ。
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