第8話 死体を見つけた

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 これは僕が実際に体験したことで、夢ではありません


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 小学生の時住んでいた僕の住んでいた地方。そこにはちょっとした山と、その麓(ふもと)に大きな神社があった。


 山は昔の偉い人が敵軍に追われて切腹したという謂(いわ)れがあったりもしたけど、基本的には誰でもゆっくり登れるハイキング目的の山だ。


 神社はなんの神様を祀っているのかわからない。当時小学生だったので気にもしていなかった。

 やたら豪華で金の掛かった社(やしろ)の後ろに件(くだん)の山があるため、ちょっと社の裏手に入ると鬱蒼とした森になっている。


 子供の頃は、その森が遊び場だった。


 溜池に溢れんばかりにいるカエルを捕まえ、空中に放り投げて地面に叩きつける遊び。カエルの肛門に爆竹を入れて爆破する遊び………今考えると悍(おぞ)ましく残酷なことをしていたが、当時の僕達は罪の意識すら無かった。


 だが、ある日そんな所業を神主さんに見つかり、僕達はげんこつを食らわせられ、ものすごく怒られた。(当時は大人が他人の子供を叩くなんて当たり前だった)


「神様がおられるところで殺生するとは何事だ! バチが当たるぞ!」


 そういわれて「悪いことをしたんだ」「小さな生き物でも殺したら駄目なんだ」と初めて自覚したのを覚えている。


 いまだにカエルを見ると「あのときは本当にごめんなさい」と思ってしまうが、当時は本当に罪の意識がなく、石ころを投げるように、おもちゃを壊すように、なにも考えていなかった。物心ついていない幼児が残酷に蝶の羽を毟るような、そんな感じだ。


 神主さんに怒られて以来、社の裏手には行かなかった。


 カエルに祟られるのではないかと恐れたのもあるが、興味が野山を駆け回ることよりプラモデルやエアガンに移ったこともあった。


 ある夏の暑い日。

 昼間からエアコンを付けると「電気代が勿体ない」と親に怒られるので、友達と外に行ってエアガンで撃ち合う遊びでもしようという話になった。


 なんせ当時はファミコンもない時代。ゲームウォッチのようなLSIのゲームを持っているだけで「すごい」と賞賛されていた頃だ。


 いまでいうサバイバルゲームみたく実際に山の中でやろう。という話になり、久しぶりに神社の裏手に行った。


 今であれば、神社の中で鉄砲で撃ち合いなんて、これまた神主さんに怒られる事案だと考えつくものだが、当時は何も考えていなかった。


 友達と社の裏手に回り、チーム決めして、いざ撃ち合い。


 互いのチーム旗を取った方が勝ちとか、撃たれたら手を上げてゲームが終わるまで死体になるとか、そういうルールは何もない。ただの撃ち合いだ。


 僕のチームは不意打ち狙いで木の多い場所に潜んだ。


 そこで僕は一生のトラウマになるように物を見てしまった。


 死体があった。


 最初は臭い襤褸切れだと思っていたそれは大人の死体で、首が長く伸びて変な角度に傾いていた。今思えば首を吊って首の骨が折れていたんだろう。


 地面に落ちて腐臭を放っていた死体を凝視することはできなかった。


 だが、一緒にいた友達は勇気があった。


 あとから聞いたら『マネキンだと思っていた』と言っていたが、何を思ったのか彼は死体を蹴ったのだ。


 バァ!と死体から虫が飛び立ち、咽るほどの匂いが立ち込めた。


 そして、死体のいたるところから、小さなカエルが顔を出し、のそのそと出ていった。


 カエルが一体どこに潜んでいたのかはわからない。


 死体にたかる虫を食べていたのかもしれないが、当時の僕には「死体の肉を食い、その体内にいた」ようにしか見えなかった。


 悲鳴をあげて逃げた僕達は、神主さんの所に走っていき「死体がある」と叫んだ。


 賽銭を入れる人や、祈祷のお客さんがたくさんいるところで子供が「死体がある」なんて叫んだらどうなるか………神主さんは激怒して僕達の頭を殴りつけた。あれは叱るためのげんこつではなく、本気。怒りの鉄拳だったとおぼえている。


 しかし、僕達が本当のことを言っていると分かってくれたのか、大人数人で裏手に行き、本当に死体があったことを確認してもらった。


 その死体のことは新聞にも載らなかった。


 どこの誰なのか。死因は何なのか。まったくわからない。


 なんの名物もない街で唯一客寄せになる神社の中で、不吉にも死体が見つかった………そんなマイナスなことを新聞沙汰にできなかったのかもしれないし、身元不明の死体なんてザラだから、いちいち新聞のネタにもならなかったのかもしれない。


 ただ、死体から逃げていくカエルの姿を見て、僕は二度とカエルを殺したりしないと誓った。


 それから何十年も経つが、僕はいまだにカエルを触れない。



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 これを書くために何の気なしに調べたのですが、カエルは日本の神話のなかでは死の領域に近いところに住まう動物だとされていました。

 また、大昔の人は生と死はひと続きのものと考えていたようで、カエルは「黄泉(よみ)帰る」つまり「蘇る」を意味する霊的なものとして崇めていたと言います。


 神社の裏手にいたあのカエルたちは、もしかしたら神様の使いだったのかもしれません。


 そしてそんな神様の使いを平然と殺していた僕はきっと………


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