第3話 死にゆくものたちの山

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 これは僕が実際に夢で体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。


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 小学生の時に住んでいた土地の、裏山の光景。


 地元で一番大きな神社の裏にある山は、明治維新の有名人が政府に追われて割腹したとも言われている山で、防空壕の跡が残っていたりする。


 僕が通っていた小学校は毎週日曜の朝にこの山を登山することを半ば義務化させていたが、小学生の脚で登れる程度の所謂いわゆるハイキングコースのような山だ。


 基本的に一本道を登っていくだけなので迷ったりすることはないし、緩やかな舗装された道を行くだけなので滑落することもない。


 この年齢になってもその風景が夢に出てくるとは「よっぽど日曜の朝に登山するのが嫌だったんだな」と、僕は夢の中で苦笑した。


 よくあることだが「これは夢だ」と自覚している夢だった。


 確かこの毎週登山の出席が八割以上ない子は疎外されるような空気だったはずだが、僕は五年生の時に福岡に転校したので、最後の方の空気感はわからない。


 なんで今になってこの山の夢を見てるんだろう。


 ああ、懐かしいな。


 裏の登山道の麓にあるラブホ、前に行くと駐車場の暖簾が自動的に上がるものだから、みんなで悪戯したものだ。


 この裏の登山道、途中でメインの登山道とつながっているショートカットルートだったと思う。


 だけど………


 こんなに険しい道だったっけ。


 こんなに角度が急な道だったっけ。


 こんなにたくさん人が登るような道だったっけ。


 今、誰と一緒に登ってるんだったっけ。


 みんなうつむいている。誰一人顔が見えない。僕に顔を見せないように俯いているようにも見える。


 僕も黙って、ゆっくり登っていく。

 余所見しながら登れるほど足元はよくない。

 ここは舗装されたメインの山道ではなく、裏手から登っていくショートカットルートだ。獣道と言われても納得しそうな、とても足元が悪い道なのだ。


 しかし誰一人躓くことなく登っていく。


 どこかでメインの山道に辿り着くはずだが、一向に広く舗装された道が見えてこない。


「これ、どこまで続くんですか」


 歩いている一人に声をかけたら、驚いた顔をしてこちらを見た。


 頬は痩け落ち、唇は屍蝋のように白く、眼球は陥没している。


 ここで僕は「死者の行列に自分が混ざっていることに気がついた。


 まずい。


 このまま登ったらダメだ。


 山を降ろうと振り返る。


 眼下には雲。


 雲の隙間から山道を登ってくる死者の列。


 標高百メートル程度の小山なのに、どうして雲の上なんだ。


「降りるのか」

「迷惑だ」

「みんな並んで登ってる」

「登ろうよ」


 方々から声が聞こえるが、僕は声の主を見なかった。

 どこかで聞いたことがある声だったからだ。

 知り合いだとしたら、それは死者だということになる。


 僕の知らないところで知り合いが亡くなっていてここにいるとしたら、見たくないし会いたくない。


 僕は死者を撥ね退けるように突き飛ばしながら山を降りた。


 そしてようやく雲の手前まで来たかと思ったら、山道は下りではなく、上り道になっていた。


 振り返ると、来た道も上り。Uの字のように登るしかない山道だ。


 帰れない。降りれない。


 雲の切れ間からは続々と死者が登ってくる。


 その死者の波に押されるように、僕はせっかく降りて来た道を戻された。




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 ここで箇条書きのメモが途切れていましたが、最後に「クゥに起こされた」と書いてあります。


 本作では箇条書きにいろいろ書き足して文章にしていますが、そのままを書くと


「城山、裏道、登る」

「死者の列」

「降りれない」

「クゥに起こされた」


 です。


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