第2話 神社の死者

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 これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。


 脈絡のない内容ですが、夢なのでご容赦ください。


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 僕は神社の境内にいた。


 行ったことがある神社じゃない。見たこともない場所だ。


 この瞬間「これは悪夢だ」と分かる。

 光の加減ががホラー映画のそれで、とても風光明媚な神社ではないからだ。

 その証拠に、やたらたくさんある朱色の鳥居は森の奥へ続いているが先は闇に飲まれて見えない。

 そこに行ってはいけないと僕の本能が慄えていたし「引き返せ」という僕自身の声がしたような気もする。


 僕は手に一眼レフのカメラを持っていた。


 永遠と続いていそうな朱色の鳥居は撮らない。なにか写りこみそうだったし、撮ってはいけない気がしたからだ。


 少し歩いて神社の境内や本堂を撮る。

 撮らなきゃいけない気がしたからだ。


 すると、なにか写った。


 女? なにかのコスプレか?


 しかし肉眼で見ても誰もいない。


 それから境内のあちこちでシャッターを切ると、必ず女が写りこんだ気がする。何度も、何度も。

 残念ながら僕の持っているカメラはデジカメではないフィルム式なので、何が写り込んだのかわからなかった。


 気味が悪くなって別の場所に行く。


 ここで僕は

【どこかにこの悪夢を解くヒントがあるはず】

 と確信する。


 僕は夢の中にいることを自覚していて、冷静に分析しているつもりだった。だが、なぜそう確信したのかはわからない。とにかく確実にそうなのだ。


 気がついたら大きな倉庫前にいた。


 倉庫の前には檻と橋。


 橋の欄干には鎖。


 ────どちらかを選べ


 と言われた気がする。


 檻か、鎖か。


 僕は鎖を選んだ。


 この時点で夢の中には強制力があって、どんなに冷静に分析しているつもりでも自分の思考能力は殆どないんだ、と後悔した。


 なぜ選んでしまったのか。

 なぜ自分から欄干の外側に立ったのか。


 鎖が手足を縛る。


 鎖の繋ぎが肉に食い込み血が出てくるが、その痛みよりも倉庫から「それ」が出てこようとしている恐怖のほうが勝った。


 「それ」はきっと見てはいけないもの。人が触れてはいけないものだ。


 橋の下には死者が芋洗のようにたむろして手を伸ばしている。


「だー」


「どー」


「だー」


「れー」


 死者たちは普通の人間では出せないような気持ちの悪いしゃがれた声で呻いていたが、突然死者達の口調が揃った。


「どー  れー  だー」


 その質問に対して僕は、「それ」がなにかを言い当てた。

(これは夢から目覚めた後、思い出せなかった)


 そして記憶を失い、また見知らぬ神社の境内にいる自分の姿を、テレビドラマでも見ているかのように俯瞰視点で見ている。


 僕は僕が見ている僕に思いを残す。


【ここから倉庫に至るまでの間に、この悪夢を解くヒントがあったはず】


 確実にあるはず。だが思い出せない。どうして確信しているのかわからないが、絶対にあるはずなのだ。頑張って見つけてくれ、僕。


 今、この時点でわかっていることは、橋の下の死者たちの質問を言い当てられないと、「それ」がやったことと同じことをされて」命を奪われるということだ。


 「それ」が女の顔をナイフで裂いたことがある犯罪者なら、僕も顔面を引き裂かれる。


「それ」が女を撲殺し山に埋めたことがある者なら、僕も頭を鈍器で殴られ、鬱蒼とした森の土の中に埋められる。


 しかし、言い当てると記憶を失って境内に戻され、その自分自身を俯瞰で見る。


 また同じことをするか、引き返すか。

 その選択をしなければならない。

 だが記憶がない僕は同じことをしてしまう。

 そんな僕自身を俯瞰で見て「引き返せ」と叫ぶが、僕は気がついていない。











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 僕には写真の趣味がありません。

 フィルム式の一眼レフも持っていません。


 映り込んでいた女の謎。

 倉庫の前で選択させられる檻と鎖の謎。

 倉庫から出てこようとする「それ」の謎。

 橋の下に蠢く死者たちの謎。

 死者たちから迫られる「どれだ」とは。

 言い当てられないと「それ」が命を奪われるのはなぜか。


 そもそもなんで自分を俯瞰視点で見れていたのか。


 これも永久ループしかかった悪夢ですが、明け方飼い猫のクゥがザラザラした舌で顔を舐めて起こしてくれました。

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