僕の見た夢は君も見る夢

紅蓮士

第1話 ヘルプミー

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 これは僕が実際に体験し、起きてすぐにメモった悪夢です。


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「女に呼び止められたら気をつけろ」


 西洋かぶれハイカラなフロックコートに山高帽子………ロイドメガネが似合う年の頃四十代の紳士が言う。


 僕たちは煉瓦造りの、人通りが多くて駅にも近い道を歩いている。


「ヘルプ! ヘルプミー!」


 声を上げている女がいる。


 しゃがみ込んで幼女を抱きかかえている女中服の女は、必死の形相で「ヘルプ!」と叫び続けているが、誰も足を止めない。


 抱きかかえている幼女が金髪人形のような西洋人だから、というのか。


 日本男子にあるまじき………と、僕が駆け寄ると顔面蒼白だった女中らしき人は、満面の笑みを浮かべて立ち上がった。


 そして、俺に一礼、その姿勢のままで高架下の闇へに吸い込まれて行くように、消えた。


 なんだというのか、あの女中は………。


 とりあえず金髪の幼女に駆け寄ると小さく細い腕が僕の首に回る。


 ゾゾッと寒気がして振り返ると、先刻まで一緒に歩いていたはずの紳士がいない。


 道行く人々は、こちらなどいないかのように歩き去っていく。視線すら合わない。


 恐ろしくなり立ち上がろうとした僕は、万力で絞められたように幼女に抱き寄せられた。


 幼女? 違う。


 なかなかお目にかかれない、人間の幼女と変わらぬ大きさのセルロイド人形。その顔は老婆のようにしわがれ、僕の首を巻いている手は地味に、そして確実にその力を増していく。


 これはいかん。


 僕は誰かに助けを呼ぼうと声を張り上げる。


「ヘルプ! ヘルプミー!」


 なぜだろうか。それ以外の言葉が喉から出てこない。


 タスケテ! ドウニカシテ! ダレカ!


 そう叫んでいるつもりなのに、口から漏れ出すのは「ヘルプ」という単語。


 しかも自分の声とはまるで違う、低く震えるようなおぞましい声で。


「ヘルプ………」


 金髪の人形は醜い老婆の面でそう言った。


 僕じゃない。僕が言っているんじゃない。この人形が僕に


 逃げたい。


 こんな人形は早く捨てて、逃げたい!


 誰でもいい、誰でもいいから僕の代わりにこの人形を抱いてくれ!


 ダレカ!


 ダレカ!













 あれからどれくらい経っただろうか。


 西洋かぶれハイカラなフロックコートに山高帽子………ロイドメガネが似合う年の頃四十代の紳士は、女中服の女を連れ歩きながらこう言った。


「男に呼び止められたら気をつけろ」


 僕は精根尽き果てた声で言った。


「ヘルプ……」

















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 この後、女中さんが身代わりになり、また僕が身代わりに………と、永久にループする夢でした。


 夢から抜け出せたのは、飼い猫のクゥが箪笥の上から寝ている僕にダイビングアタックしてくれたからです。


 あの日は、クゥが僕からくっついて離れませんでした。なにか感じ取るものがあったんでしょうか………。

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