第四話 早すぎる帰還

 気がつけば、霊体だけが浮いているみたいに不自然な状態で、俺は空を飛んでいた。


「ここでキャンセルと十回唱えれば、異世界に舞い戻ることができるぞ。もう一度だけよく考えるがいい……」


 頭の中に、ここに来たときに聞いたのと同じ、霞んだ声。

 聞き流して、下界を眺める。

 きっと、思い出を振り返るために用意されたこの時間に、俺は、身の毛もよだつ恐ろしい光景をの当たりにしていた。

 それは、俺と同じくらいの年齢の日本人の少年たちが、過酷な奴隷労働を強いられているおぞましい風景。

「休んでんじゃねえ!」

「頑張れ元勇者、ガッハッハッハ!」

 などと罵られながら、とんでもないほど重たそうな砂袋を鞭打たれながら運んでいる。

 壁一枚隔てた向こうでは、おそらくは労働の果てに倒れた男が、外科手術で内臓を切り取られている。

 別の場所では、檻の中、狼の群れの中で少年が生きたまま貪られ、それを金持ちらしき爺と婆が囲んで笑っていて……。

 あぁ、ちくしょう、やっぱりそうだ。

 何が勇者だ、何が儀式だ。

 こんな都合のいい話あるわけがなかった。

 こんなの……まんま美人局つつもたせじゃねえかっ!!

 あぁ、なんか、わかったぞ、全部わかった。

 あの魔法陣はきっと、異能と呼ばれていた勇者の力を、根こそぎ奪うためのものだったんだ。そうに違いない。

 そして奴隷にされているこいつらは……俺と同じようにこの世界に降り立って、力を奪われた人間たち……。


 じょ……冗談じゃねえ……っ!!!


 誰がキャンセルなんてするか! こんなもの日帰りだ馬鹿野郎!

 

 俺は帰るぞ、我が家に帰るぞ!


 …………。

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