じゃねーよ!

 クリーニング屋に出していたスーツ類を受け取りに行った。

「あれ? 今日帰り早くない?」

 和泉節子のようなチェーンがついた眼鏡をかけたおばちゃんが僕に話しかける。

「いや、今日休みなんで」

「そうなんだ~」

 何気ない会話だが、そこで途切れる。このクリーニング屋を利用したのは今回初めてだった。しかも受付の時は違うおばちゃんだったはずだ。おばちゃんも違和感に気づいたのだろう。

 この人はいつものあの人じゃないのか? 失礼になるか下手なこと聞けないし……。

 僕もそこで「誰かと間違ってます?」なんて言わない性格なので、なんか変な空気の中、クリーニング済みの衣類を受け取って帰った。


 昔から「昨日○○で見かけたよ」とか、一歩も家の外に出ていなかったのに言われたり、「昨日、○○にいたね」とか行ってもいない場所での目撃情報を言われたことがあった。

 今住んでいる辺りでは、自分でも「いや似てるなあ」と思った人が10人くらいはいたかもしれない。

 一度、「あれ? 俺?」と一瞬パニックになりそうになったことがある。死の恐怖を感じた。見たら死ぬと言われる「ドッペルゲンガー」を見てしまったと思った……。


 似ている人はこんなによくいるのに、有名人の誰かに似ていると言われたことがほとんどなく、「○○じゃねーよ!」とツッコんだことは一度もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る