いきなり、ステーキ食いてぇ!と思った話

 ステーキ食いてえ!

 そんな思いで僕は席を立ち、ランチへ出かけた。

 まあ、いきなりそんなことを思ったわけではなく、前日に観たテレビの影響だ。ステーキを食いまくっているバラエティ番組だった。

 成り行き任せに職場近くのリーズナブルなステーキ店へ入る。


 ステーキ店といっても、大抵はメニューにハンバーグもある。基本的に僕はハンバーグが好きなので、やはりハンバーグが食べたいなぁと思いつつメニューをめくっていると、ちょうど良いのがあった。

 ハンバーグとステーキのセットで「注文の際はコンビとお呼び下さい」と書いてある。


 呼び出しボタンを押して店員を呼ぶ。

 高校生くらいに見える女の子が注文を取りに来る。

 僕は「コンビ」と短く、かつ的確に注文を伝えたつもりだった。

 店員の女の子は「ちょっと待って下さい」とハンディー端末をポチポチやりだす。

 待っている間の僕は何か辱めを受けている気分だった……。

 しばらくして「ハンバーグとステーキのセットですね?」と聞かれる。

「あ、はい……」と僕は言った。

 注文を取り終えた女の子はクールに厨房の方へと去って行った……僕は何か置き去りにされた気分になった。


 パラパラとメニューをめくって全部見たが、「コンビ」と呼んで良いのはさっきのハンバーグとステーキのセットしかなかった。まあ、あの子はきっとまだ新人で良く分かってなかったんだろうな。スポーツで言ったらまだ補欠とかそんな感じなんだろう……という感じで待っていた僕の元へ「コンビ」が運ばれてきた。

 運んできたのは先ほどの女の子。何気なしに見た名札には、店員のランクなのだろうか「レギュラー」と書かれていた……。


 僕は何か悔しい気分で「コンビ」を食べ始めると、ガラガラッと一人の客が入ってきた。

 入口近くの席に座っている僕は、外から入ってくる冷気と共に客が入ってきたことにすぐ気が付く。その客は僕よりも入口に近いカウンター席へ座ろうとしていた。

「ピンポーン」

 呼び出し音が鳴る。いきなり!? 今入ってきたと思ったのも束の間、その若い男の客は椅子に座り掛けながら前方に手を伸ばして、座ると同時に呼び出しボタンを押した。そして、数秒後には立ち上がって「すいませ~ん!」と店員を呼び出す。

 せっかちすぎ~! いくらなんでも、店員の反応速度を過大に見すぎだろう……広い店ではないけど入口すぐの所に座ったんだし、せめてボタンを押してから数十秒は待とうよ……なんて思っていたところに「ピンポーン」とその男はさらに呼び出しボタンを押す。立ち上がって数秒というところだ。

 二回目の呼び出し音で「はーい」と店員からの反応があった。

 僕の脳内には先ほど一回目の座りながら呼び出しボタンを押す男の姿がスロー再生されていた……フォーム、着地姿勢共に良く、そういう競技があれば高い採点が期待できるだろう。


 さっきあの男が入ってきて店員がやってくるまで、30秒掛かっただろうか……。

   

 僕はなかなか切れないステーキに苦戦し、まだ一切れも食べられずにいた。

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