青い心

 見かけたのは、トレンディドラマにでもあるようなシチュエショーンだった。


 仕事が休みだった僕は、散歩中でちょっと近所から離れて歩いてきていた。そして、小学校の通学路になっているT字路にきたところで、どちらから帰った方が家に近いのかをスマホで調べながら辺りを見回していた。


 二人の男子が路地を並んで歩いてくる。高学年くらいか。一人はすらりとして、端正な顔立ちに見た目もオシャレ――仮ニA作トナヅケル――。もう一人はずんぐりとして、短く刈り込んだ髪にちょっと芋臭い顔立ち――コッチB作――。

 とくに会話はないようだ。

 

 T字路に突き当たり、「じゃあね」と言って、左右それぞれの道へ別れて歩いていく二人。

 少し歩いたところで突然、B作が振り返って「あのさー!」と大きな声でA作を呼び止める。

 ドラマの中でならこの後のセリフは当然、「俺、あいつのことお前よりずっと好きだから!」とかいう狭い範囲での三角関係を表す、恋のライバル宣言だろう。

 

 無言で並んで歩きながら、B作はずっとこの宣言のことを考えドキドキしていたのだろうか。A作もそういう雰囲気を感じながら――あいつはお前に渡さない――などと心の中で思っていたのだろうか。ああ、なんて最近の小学生は進んでいるんだ……道に迷った方向音痴のおじさんもスマホ片手にちょっとドキドキしながら次のセリフを待つ。


「あのさー!」と、A作を呼び止めた後に続けて、実際に現実の役者である小学生B作が発したセリフ、それは――


「原子爆弾ってぇ、何個も落っことされたら地球壊れちゃったりする?」という、だいぶスケールの大きな問い掛けだった。


 立ち止まったA作は首だけちょっとB作の方に振り向けて、「たぶんね」とクールに一言だけ答えて再び歩き出した。

 きっと、三国同盟とポツダム宣言についての質問ならば、彼は三日三晩でも熱く語り続けるに違いない。

 

 そして僕は思う。


――未来は君等の手の中――

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