「幸せ」とは言えない

愛されたことなんかないわけじゃない。

よく漫画とかである、可哀想な主人公みたいな生活は過ごしたことはない。

親だっている。

父母兄妹、祖母祖父…愛されて育ったこと自分でもわかる。

手足だってないわけじゃない。

耳だって聞こえるし目も見える。声だって出せる。別に障害もあるわけじゃない。

お金に困ったこともない。衣食住、ちゃんとある。


でも、時々……いや、毎日自分は幸せではない。と感じる。


別に勉強がクラス一番できないわけでもない。

友達もいないわけでもない。少なくも多くもない。普通ぐらいだが、全くいない訳では無い。



「ねぇ、あすかちゃん。幸せって何かな」

ある友達がいつも言う言葉。

いつも綺麗な黒髪を髪でなびかせながら幸せそうな笑顔を私に向けながら、いつも聞いてくる。

それに私はいつも同じ言葉を返す。

「……幸せ、か…ご飯が食べれること」

何一つ、面白くない回答

いつかの授業で先生が言っていた気がする。

それを思い出した。

自分の中にはそれしか分からないから。



「私はね、いーーっぱいあると思うんだ〜

友達と遊べるだけで幸せ

家族と入れるだけで幸せ

好きな食べ物を食べれて幸せ

好きなだけ好きなことができて幸せ

好きなものに囲まれて幸せ

学校なんてない幸せ

顔がかっこいい、可愛い幸せ

すべてに恵まれてる幸せ…」


あの子は一つ一つ上げていった。

1つ1つ言う度、彼女の目はキラキラと海の水面みたいに煌めいていた。

『価値観の違いでわかる人それぞれの幸せ』

私はあの子に少し尊敬しながら見ていた。




その子はこの話をした数日後に死んだ。

親からの虐待が死因らしい。


服の上からじゃ見えない痣の数々

それを感じさせないようにいつも笑顔だった彼女

それでも別れる際は辛そうに笑っていた

それに気づいていたのに無視していた。そんな自分が情けなくて自分の方が死ねばいい、とさえ思った。


不満のひとつ、何も言わなかった彼女



最後の最後で、彼女は幸せだったのだろうか?

それは私にはもう分からない。


あなたの幸せは、何だったの?

その答えはもう聞けない。


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