水
水円 岳
水
容赦なく照りつける陽光。それをうんざり顔で見上げていた
「ご主人さまあ。袁はすごく豊かなところなのに、どうしてここは荒れ放題なんですかあ?」
「元々ひどく少雨の土地じゃからのう。湧き水の周囲にしか畑を打てぬ。袁城は太い地下水脈の真上にあるが、ここは……な」
「そっかあ」
驢馬の手綱を引いていた小虎子が、ふと足を止めた。
「じゃあ、この先にはもう村すらないように思うんですけど。行き先はどちらですかあ?」
「今日中には着くじゃろう。至洞じゃ」
「しどう?」
「そうじゃ。その
小虎子はぴんと来た。袁城城主の
「危険……ですか?」
「行ってみねば分からぬ」
楊周の予想通り、一行は夕刻に大きな洞に辿り着いた。楊周は、小虎子の
「ふむ」
「何かいるんですか?」
小虎子が、怖々楊周の顔色を
「いや、魔の気配はないな。懸念した呪符などもなさそうじゃ」
「ふううっ……」
それを聞いて、小虎子が胸を撫で下ろした。
「だが、その方がずっと厄介じゃ」
「えっ?」
手にしていた杖を地面にどんと叩き付けた楊周が、足元を見つめて
「なんで厄介なんですかー?」
「袁に湧き出る水が、近年ひどく細っておるそうじゃ。佑どのはそれを、
「違う……って?」
「袁の水は限られておる。ゆえに、人が増えれば水が減る。人を減らさねば水が涸れる。そういうことじゃ」
「ああっ!」
慌てて小虎子が聞き返す。
「どうにもならないんですかっ?」
「ならぬ。雨乞いで
松明の光が届かぬ洞の奥をじっと見つめていた楊周は、くるりと
「佑どのに、そう奏上することにしよう。わしは、魔を滅することは出来ても水は作れぬ。所詮一介の人に過ぎぬからの」
【 了 】
水 水円 岳 @mizomer
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