和泉楓-Episode2-

「ほら、来たじゃない」


羅菜ちゃんが何か他に言わんばかりの顔で衣を見ていた。


「っち、早く準備しろよ」


そんな羅菜ちゃんの顔にムカついたのか、衣は舌打ちをして武器庫に入っていってしまった。


お茶の準備をしていた私たちは班室に入り、各々出動のための身支度を始めた。


私は衣に続いて武器庫に入り、自分の棚に保管されている自動拳銃を取り出した。


弾の数を確認し、脚のホルスターに予備のマガジンを一緒に納める。


隣の棚の衣も同じく、残弾を確認しホルスターに銃を納めた。


「羅菜ちゃん!銃は持って行ってって何度も言ってるよね」


班室の方から藍沙ちゃんの声が聞こえてきた。


班室に戻ると何やら羅菜ちゃんと藍沙ちゃんが言い合いをしていた。


またいつものが始まったようだ。


「大丈夫だって言ってるじゃない。私に銃は必要ないの」


「大丈夫じゃないよ。もし万が一のことがあったらどうするの?」


出動要請が出ると、決まってこのやり取りが始まる。


銃を持って行こうとしない羅菜ちゃんVS銃を持って行かせようとする藍沙ちゃん。


結局最後は羅菜ちゃんが無理矢理藍沙ちゃんに銃を押し付けられて持って行くのが恒例だ。


放っておいても時期に収まるのでスルー。


「静華ちゃんと霧ちゃんは準備出来た?」


チョコレートを摘み食いする霧ちゃんとホスルターを丁度付け終わった静華ちゃんを見た。


「銃を出せば準備完了です」


「おっけー、じゃあ準備出来たらみんな玄関集合ね」


先に準備を終えた私は1人、玄関へ向かった。




◆◆◆




-東京・3区-


シトシトと小雨が降る中、路地裏付近が大勢の野次馬に囲まれていた。


黄色いテープと青いシートが張られた現場には数台のパトカーが停まっており、警察官が見張りをしている。


私たちは野次馬の隙間をぬって現場に近づいた。


「ご苦労様です。出動要請を受けました、四束協会学園四束ノ一吸血鬼ハンター第一戦闘班の和泉です」


敬礼をして、見張りの若い警察官に名乗る。


「同じく鏡です」


「堀間です」


「京極です」


「久宮です」


「佐屋です」


それに続き他のメンバーも名乗った。


「あっ、ご苦労様です。先ほど処理班の方々が来られて、今現場検証を行っていると思います」


若い警察官も同じく敬礼をし、現場の状況を伝えた。


「また処理班の奴らに先越されたか」


ボソッと衣が悔しそうに呟いたのを私はよく聞いていなかった。


「そう言えば、先輩たちは?」


キョロキョロと辺りを見回す。


まだ今日一度も会っていない同じ班の先輩を探した。


「さぁ?まだ来てないみたいだけど」


首を傾げて答える藍沙ちゃん。


先ほどの羅菜ちゃんとの勝負はいつも通り勝ったらしい。


「きっとお二方ともお忙しいのですよ」


困ったような顔で静華ちゃんが言う。


先輩たちが私たちの班の最も重要な戦力である。


その先輩たちがいないことが不安なのだろう。


何度か私たちだけで出動したことがあるが、まだ経験不足で慣れていない。


もし誰かが大きな怪我などをしてしまった時、冷静に対処できるのは先輩たちだけなのだ。


「……」


静華ちゃんの肩越しに霧ちゃんがひょいと顔を出した。


やっぱり霧ちゃんも不安なのかな。


「なら、私たちだけで片付けちゃえば良いじゃない」


少し笑った羅菜ちゃんが余裕そうに言った。


その余裕は一体どこから生まれてくるのやら。


でもこればかりは仕方がない。


私たちで何とかしなければならない時もあるんだから。


「そうだね。いつも先輩たちにばっか頼ってたらよくないもん」


私は先輩たちを探すのを止めた。


「じゃあ、私たちは私たちの仕事をしますか」


藍沙ちゃんがそう言うと、みんな耳につけた通信機の電源を一斉に入れた。


プツッ


回線が繋がった音が聞こえた。


声が聞こえているか確認をするために呼び掛けた。


「あーあー、こちら第一戦闘班の和泉です。聞こえますか?」


『こちら第一通信班の三木です。問題ありません、聞こえています』


通信機に第一通信班の三木先輩の声が流れた。


「三木先輩、状況の説明をお願いします」


通信に問題が無いのを確認した私は本題に入った。


『はい。被害者は21歳女性。襲撃時はバイトの帰りだったと思われます。1人自宅までの近道である路地裏を歩いている際に襲われ、重症です』


「襲った奴は純血ですか?」


説明が途切れたところで衣が尋ねた。


『いいえ、2人共混血だったと思われます。正確な鑑定結果はまだ処理班の方から届いていません。標的は共に3区の四谷四丁目を東へ逃走中。それから、建物の屋上の監視カメラにのみ姿が確認できているので、恐らく地上には下りていないかと』


混血か……なら、被害者の女性が変異することは無いね。


「了解しました。また何かあったら伝えて下さい」


プツッ


通信班との回線が切れた音が聞こえた。


「四谷四丁目ってことはまだそこまで遠くには逃げてない。手分けして追うぞ」


「うん」


「ペアはいつも通りで良い?」


「問題ない」


「じゃあ、私と羅菜ちゃんは上から追う」


羅菜ちゃんが藍沙ちゃんの横で頷くと、2人とも駆け足で現場から去っていった。


「では、私と霧さんは下から追いますわ」


静華ちゃんと霧ちゃんも先ほどの2人同様に現場から去った。


残されたのは私と衣。


まぁ、いつも残されるのは私たちだけど。


「私たちはどうする?」


「上から追うぞ」


「おっけー」


標的を追うべく私たちも現場を後にした。

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