第38話「狐狗狸廃病院島」18

 フラッシュライトがこちらに向けて振られると、すかさず小言が飛んできた。


アイカ「遅いなぁ! さすっち君! 

寒空の下で今にも寝入りそうだったぞ!」


「すみません! 

社長! やっちゃいました!」


アイカ「何をだね! その図体でそんなに慌てて、心霊でも現れたかね!?」


「いえ! 頭を這うフナムシに気を取られて、ストーブを蹴飛ばしました!」


アイカ「ほう! 分からんでもないぞ!」


「そのせいでターゲットの拠点が現在炎上しています!」


アイカ「持ち出した証拠品は?」


「変態が持ち出したパソコン一台と、この携帯端末です!」


アイカ「微妙! だがまぁ… 

とりあえず逃げようか! 諸君!」


川部「マジかよ!」

 いつもより更に下品にゲラゲラ笑っている。

まぁ、逆の立場だったら俺も笑いそうだ。

これじゃあただの放火魔だ。


武部「フナムシならしょうが無い、多分。

キモいし」

 無理にフォローしないでくれ。

馬鹿馬鹿しい失敗なのは百も承知だ。


澤部「あ~、それじゃ待機して貰っている漁師のおじさんに連絡入れますね」


堀部「…長居は無用」


アイカ「よし! 船着き場まで走るぞ!」


 真夜中に潮風を浴びながら走る。

澄んだ冬空に浮かぶ月が綺麗で、結構なことをしているにも関わらず何故か心が躍る。

悪い人間になったものだ。


 …ふと、あの遥か遠い日を、異邦でのことを思い出す。


"「アホみたいに寒いわね! 

まさかとは思うけど、ガセネタじゃ無いでしょうね?」"


 …聞こえる筈の無い勝ち気な声が、

苛立たしげな羽ばたきが、

冬の潮風に乗って聞こえた気がした。







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