第33話「狐狗狸廃病院島」13
夜闇に紛れ、何かに向けて黙々と動く集団というのは中々に不気味だ。
川部「ね、ね、草間(そうま) さん? あとどれ位かかるかしら?」
筋骨隆々、執事服の老人にさっきまでチビだのバカだの宣っていたお嬢様がしゃんなりと声をかける。
馬鹿馬鹿しい茶番のお陰で剣呑とした雰囲気は台無しになった。
草間「はい。 この調子ですとあと30分程で準備完了、1時間後には終わりの予定です」
川部「ありがとう。
どうぞ気をつけて励んで下さいね」
草間「はい。 ボーナスでも付けて頂ければ尚の事」
ニヤリと上げた老人の口角に猛獣みたいな犬歯が覗く。
川部「あらあら! 気が利かなくてごめんなさいね! それじゃあ45分間で全部できたら全員に100万円追加してあげます」
やっぱりこのお嬢様、馬鹿何じゃ無かろうか?
草間「ありがとうございます。
夜間に叩き起こされた従者一同、奮起することでしょう」
草間「あーっ、あーっ。 各員に告ぐ、各員に告ぐ。 交渉成功、交渉成功。 予定時間15分短縮で100万追加、15短縮100万追加。
各員の健闘を祈る」
何処から出したか無駄にゴツいトランシーバー、終わるや否や島のあちこちから口笛やら雄叫びが上がる。
川部「あらあら、今日も威勢が良いのね」
草間「金になると聞けば何処にでも駆け付ける狼みたいな奴等ですよ」
川部「あら? 草間さんだってそうじゃ有りませんの?
いの一番に手を挙げて下さったじゃない」
草間「ハッハッハッハッ! こりゃ一本取られましたな」
マジで茶番じみたブルジョワの一幕だ。
社長「…何が “あらあら” だっての。
オカルトの副部長といいお嬢様って立場のやつは皆、同じマニュアルでも読んでいるのかね?」
うちの社長がボヤキながらやっていることは貝殻拾いだ。
いちいちダサい。
澤部「いや〜でもさ? 八十のお嬢様はお酒飲んでひっくり返ってたじゃん?」
「いやいや、最近なんか俺らいる時でもたまに下着じゃん? 社長はそもそもの常識が当てはまらねぇから論外でしょ」
澤部「佐藤さんに聞いた話だけど、時々ノーパンで寛いだりするんだって」
「えっ!? んじゃ何? あのダッルダルの下ノーパン? 最悪。 ソファとかめっちゃ汚いじゃん」
澤部「あのヨレヨレブカブカキャミソールもねぇ… 別のにした方がいいと思うんだけどねぇ〜
ノーパンは流石に冗談… じゃない?」
堀部「…アルコール消毒でもした方が良いだろうか?」
澤部「そうだねリーダー! 何時も来るの早いし私やるよ!」
社長「おいこら、聞こえているのだがね?
諸君?」
待つのが暇なのか貝殻拾いに精を出していた子供社長が興奮気味に近づいてくる。
「何キレてんですか社長! 聞かせているんですよ」
澤部「ノーパンは無いですよね? 社長」
堀部「…下着もどうかと思うが? 社長。」
社長「分からない諸君だな! ノーパン健康法を知らんのか? 締め付けが無いからストレス軽減、蒸れないから皮膚病予防の最強健康法だぞ? 良いことしか無かろうよ! 合理的に!」
「いや、普通に汚ぇっすよ社長。 TPOしっかりして下さいよ」
澤部「汚ぇです」
堀部「…汚いな」
社長「何なのだい! 寄って集って! あそこは私の住居でも有るから自由だろうよ!」
人前出てくんのにまともな格好の一つでもしろよ、というごくごく単純な要望なのによくキレる。
矢田「あの〜、お話中すみません。 何か発煙筒みたいなもの、たくさん運んでいますけど… あれって何ですか?」
ガキ社長のお守りは面倒臭いのでとりあえず比較的マシな大人に対応することにした。
「あ~、説明忘れてましたすみません。
くん煙除霊ってやつっすよ。 矢田さん。
害虫駆除の要領で広範囲の除霊を煙で一気にやるって作戦っす。 落ち着いたら確認がてら俺らと中、突入しますんでよろしくお願いします」
矢田「分かりました。
いやぁしかし、今は随分大掛かりにやるものなんですね。 施設の規模からしてそれなりに大口の契約でしょうし、やっぱり投入する予算もでかいんですか? すごいや」
「いえいえ、あのお嬢様がポケットマネーで無双してるだけっす。 特別っす、特別。
普通にやってたんじゃ赤字ですよ、あれ」
矢田「あぁ、もしかして川部さんって、川部グループの…
納得です。
生きてた頃はライバル社でしたね。懐かしい」
昔からの繋がりで知ってはいたが、予想以上に副業の規模はでかいらしい。
社長「あ~! あ~! とにかくだな! 私は悪くないからな! 一番楽な格好で在宅ワークに励んでいるようなもの何だからな!!」
少しの遠慮もなく巻き込んでくるあたり呆れるっすよ社長。
「はいはいはい! 分かりましたよ、うっさいですね。 そのかわりノーパンは止めてくださいよ」
アイカ「はぁ? 嫌だ」
「どうしますリーダー? このワガママ社長」
堀部「…何か折衷案を」
澤部「要は締め付けが無くて蒸れなきゃ良いんですよね?」
社長「出せるのかね? 君達に?」
「なんでそういちいち威嚇するんすか社長」
社長「君達が寄って集って汚い汚い罵るからだろう!」
矢田「あ~、そういえばうちのミューちゃんのお尻に昔、シール貼ったりしましたね。 海外で流行ってるとかで。 気持ち悪かったのかすぐに剥がしちゃいましたけど」
社長「人を畜生扱いは止め給え!」
矢田「家族を畜生と呼ぶなガキ」
オッサン急にキレんなよ。
成人男性のドスの効いた声は意外と怯む。
というか、普通に不快。キャンキャン煩い社長と良い勝負だ。不快指数的な意味で。
社長「…ぁ、ごめん…」
「まぁまぁまぁ、言葉のあやっすね。言葉のあや。 ほらほら社長、頭化石なとこあるから。
もっかい謝っときましょ? 社長」
社長「すみませんでした。 ごめんなさい」
凄まれてすぐ泣きそうになるあたりはマジでガキっぽいっすよ社長。
堀部「…しかしあれだな、局部に貼って部分的に蒸れては意味があるまい?」
澤部「そうだね〜 いっそプールで使う着換え様のタオルでも巻かせる?」
「あぁ、もうそれで良いんじゃないッスか?
そういやバスローブとか色々あるじゃん」
澤部「ねぇねぇ社長。 今度、可愛い下着とかローブとか買いに行きましょう? ね?」
社長「…うん」
最近身近な、大人って区分の奴らを見ていて心配になる。
実は世の中に本当の大人ってあんまし居ねぇんじゃねぇか?
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