第26話「狐狗狸廃病院島」6

 「6人乗れて荷物も積める車がこれしか貸出して無かったんだから仕方ないだろう…」

 こちらの言わんとすることを予測の上先回りして返答する彼女は、珍しくその珍妙な格好と一致する。

褒めてやりたいところではあるが…


 「「「「「…」」」」」


 この場の雰囲気に限ってはかえって嫌味な気がするので止めておこう。



 武部「いや…それにしたって…

レンタカーにスモークは貼っていないと思いますが、普通」

 それはとても気になった。

窓という窓にもれなく貼られた薄暗いフィルムが、よりその車を不審なものにしている。


 アイカ「近所のレンタカー屋さんに無理言って業務用に使っているのを貸して貰ったんだ。 仕方あるまい」


 川部「胡散臭、

いかがわしいことやってる店なんじゃねえの?」

 件の車は黒の大型バン。

窃盗団とか乗ってそう。

偏見だが。


 アイカ「失敬な! お祖父様の経営する会社だぞ! ちゃんと真っ当なやつだ!」

 その主張にはやや疑問があるが、取り敢えず借り物なんだからボディーを平手で叩くのは止めといた方が良いと思う。


 澤部「まぁまぁ、それよりも早く乗っちゃお? ここでワチャワチャしてると恥ずかしいよ…」


 堀部「然り…」

 全くその通り。

平日の朝っぱら。

通勤通学ラッシュのど真ん中。

異様な威圧感のその車とゴチャゴチャうるさい我々は、駅前の駐車場であまりよろしくない感じに衆目を集めている。

そろそろ職務質問でも受けそうな雰囲気なので身を隠すのは賛成だ。


 澤部「ほら! 早く早く! 」

 本当に早く衆目から逃れたいらしい。

悲鳴似た声を上げ、急かす様に物騒車のドアをスライドさせた彼女は硬直する。


 川部「うわ…キモ…」

 わきから覗きこんだ彼女の感想には賛否両論有るのだろう。

俺はただただ驚嘆した。

車のシートにヘビ皮を敷き詰める奴というのも世の中には居るらしい。

なんだ? アナコンダか何かの皮なのか?


 武部「これもセットなんですか?」


 アイカ「あぁ…これもセットだ」


 堀部「…落ち着かんな」


 アイカ「すまんが我慢してくれ」


 澤部「ヘビ好きじゃないです…」


 アイカ「助手席ならワニ皮だったぞ」


 澤部「なんで爬虫類なんですか…」


 アイカ「知らん。 ほら! 

恥ずかしいんなら早く乗れ! 早く!」

 車内を覗き込む学生らの尻を急かす様に叩いて回る。

中々に効果はあるようで「え〜」だの「う〜」だの「げぇ〜」だの銘々口にしながもノロノロ車内に入っていく。

後で体罰だので騒がなけりゃ良いが。

勿論、俺は運転席。

リアルなオオトカゲと大蛇の頭部が飾りつけられ、毒々しい謎の皮で彩られた何か渦巻く異空間。

気なしかしっとりしている気がする…

レプリカ、なんだよな?


 アイカ「いやぁ、些か驚いたがこれも良い思い出だな! 諸君!」

 誰からか「どこが良いんだよ」と、ぼやきが漏れたが彼女は満ち満ちた表情でミーティングに入る。


 アイカ「諸君! 

これから約3時間かけてa県j市に車で向かう。 それから昼食、小休止の後d浜の××島で下見を行い午後4時44分にj市役所内で今回の依頼主と打ち合わせだ。 その後、予約している例の民宿

「おじさん家」で宿泊、の予定になる。

安全第一だからな! 本格的に取り掛かるのは明日の夜からにする。 よろしいかな?」


 武部「質問いっすか?」


 アイカ「はい! なんだね? たけっち君!」


 武部「依頼主との打ち合わせって、俺達も行くんですか?」


 アイカ「そうだぞ勿論! 向こうさんにもしっかり話は通してあるからな、臆することはない!」


 武部「座ってるだけで良いんですかね?」


 アイカ「形としてはそれでいい。

しかしだ諸君!

漫然と過ごすなよ? より実務的な現場活動に触れるわけだからしっかり見て、今後に生かしてくれ給え!

勿論、必要なら発言してもいいぞ! 一応、発言の前に私に確認は取って貰うがね」


 武部「うーっす。 分かりました。 

機会があればそうします」


 アイカ「他には?」


 川部「へい。」


 アイカ「珍しいな馬鹿…

かわっち君、何かね?」


 川部「下見っつても何やんだよ? 

あと、馬鹿は余計だチビ」

 

 アイカ「現場の様子を確認して巣食っているものについて少し情報を集めたいと考えている」


 川部「前に貰った添付データからして動物霊で確定じゃねえの? そもそも狐狗狸関連なんだし」

 

 アイカ「そうかもしれん。 だが実際に見たわけでは無いからな、そう思われるだけで全然違うものだったら厄介だろう? もしワケのわからん異霊なんかが相手だったら特別な対応が必要になるしな」


 川部「了解〜」


 アイカ「他には無いかね?」


 澤部「はい」


 アイカ「おう! さわっち君! 何だね?」


 澤部「打ち合わせ内容のメモ、録音は大丈夫ですか?」


 アイカ「あぁ、すまん。 

NGなんだ申し訳ないが控えてくれ給え」


 澤部「分かりました。 やっぱりこういう打ち合わせって記録に残さないものなんですか?」


 アイカ「依頼主によるぞ? 

緩いところは緩いんだが… 

自治体は全体的に厳しいな。 普通には見えない何かを解決するのに税金が投入されているなんてスキャンダル、万が一にも世間に晒されたら中々に厄介だからかもしれん。

経験則だがメモが取れれば良い方だよ仕方のないことだ」


 澤部「シビアですね… 分かりました。 ありがとうございます」


 アイカ「はい! 他には?」


 堀部「…頼もう」


 アイカ「寡黙なるほりっち君、何かね?」


 堀部「…我々の学校に現れたような現象が相手の場合 …正直、我々は自信がない。 

今回、何か…命綱のようなものはないのだろうか?」


 アイカ「すまんな… やはりこういう界隈なのだから絶対の安全は保証できない。

だがな、今回は建物に入る前に準備は万全にしておく。 霊薬も全部飲んでからいくし、とっくにご存知ではいるだろうが突入のタイミングでお祖父様にも一応連絡を入れる様にする。 

そういう私が用意できる最善を尽くすから、どうにか納得していただけないだろうか?」


 堀部「…失敬、愚問であった。

"絶対はあり得ない" とは、分かり切っていたことであった…申し訳ない」 


 アイカ「安全にこした事は無いのだよ。

君の問いかけで私も再確認できたしな、十分有益であったから謝る必要など無いぞ! 

自信を持ち給えほりっち君!」


 堀部「…有り難い」


 アイカ「はぁい! 他には無いかね!? 他には?」


 俺「うっす」


 アイカ「はいはい、さすっち君! 何かね?」


 俺「しょうもない事で恐縮ですが…」


 アイカ「君も自信を持ち給え! さすっち君!」


 俺「髪にご飯の塊が引っ付いてます。

アイカさん」

 気になって仕方無かった。


 アイカ「うっそ… どこ?」


 俺「ここらへんです、ここらへん…

後頭部付近の…」


 川部「おいおい! 締まらねぇなあ! チビ社長!」

 川部が品のない笑いをたたえながら軽口を叩く。

頼むから出掛けに喧嘩するのは止めてくれよ。


 アイカ「うっさいぞ馬鹿! 

うぇぇ…

乾いてカチカチだ…」

 ありゃダメだ。

米粒が髪に絡んで黄色く乾燥しちゃって、切るしかないだろう。

中身はともかく綺麗な髪なのに勿体ない。


 アイカ「最悪だ! サム、サー厶! ハサミを持ってきてくれ」

 相変わらず、消耗が激しいと言う割りには守護霊の扱いが適当で説得力がない。

…とかく考えているうちに彼女の手には安っぽい事務仕事で使うようなハサミが握られていた。


 アイカ「ふほぉ…」

  後頭部の付け根近くだから中々に危なっかしい。

変な呼吸法のかいもなく不自然に曲げられた腕がプルプル震えている。


 川部「切ってやろうか? チビ社長?」

 

 アイカ「集中してんだから黙ってくれ! 馬鹿!」


 澤部「ちょっと危ない位置ですし誰かに任せた方が…」


 アイカ「いい〜から、黙っててくれ! 自分でやるから!」

 相変わらず変なところで意固地なものだ。


 "バツッ"

と良い音が鳴る。


 アイカ「そーら切れた! どうだ? 良い感じか?」


 澤部「あ〜、良い? かな? とは思いますよ…」


 川部「一部ぱっつん後ろ髪チビ女…」

ボソッとクスクス声の冷やかしが聞こえた。


 アイカ「え…」


 川部「なんでもないですぅー、お似合いですぅ」

ミラーからじゃ良く分からんが、女性陣の反応からしてあまり良くはなさそうだ。


 武部「…そういうのよく分からないんで。

良いんじゃないっすか? …多分」

 何だか半煮えのパスタを齧ったような顔がミラーに映る。

そんなに残念なのかと気になって助手席の爬虫類大嫌い系女子に倣って後ろを向く。


 俺「あ〜…こりゃ、まぁ…」

  不自然だな。


 堀部「…使えないだろうか?」

 一部ぱっつん後ろ髪が出現したあたりからポケットをゴソゴソやっていた堀部が、何かを太い指で摘みぶら下げる。

黒にミント色のストライプ、可愛い目のフリル付きリボンだった。


 武部「げっ、なんなんすかリーダー?」 


 堀部「…ミニチュア用の装飾で余ってな」


 武部「あぁ…、そういえば言ってたっすね」


 川部「ぎひひぃ! 違和感しかねぇ!」

なんて笑い声だよお嬢様。


 堀部「…マシになるのではないか?」

何が? とは聞くまい。


 澤部「ぇえ…どうかな?」


 川部「どうとでもなるっしょ! ちょっと髪イジるぞ? チビ!」


 アイカ「そんなまずい感じなのか?」


 川部「いいから! いいから! …

やべぇ! 良い感じだ」

 クスクス笑いが漏れるあたりどうかと思うが。


 アイカ「なぁ、本当に大丈夫か?」


 川部「大丈夫、大丈夫! 見た目相応可愛くなってるから大丈夫ですよ〜 社長〜」


 アイカ「そんなんじゃ安心できんよ…

なぁ…どうだ? 大丈夫か?」


 「「「「…」」」」

 くるりと後ろ髪を見せてくる彼女だったが我々は反応に困るのだ。

確かに川部の言う通り見た目相応ではある。

見た目相応、子供っぽさが過ぎる可愛いさに溢れている。

…依頼主が不安で卒倒しないか心配だ。


 「まぁ… 可愛いとは思いますよ?」

 誰が言ったか…まぁ嘘は付いていないであろう言葉に全員でブンブン首を縦に振って取り敢えず、より子供っぽくなった彼女は安心したらしい。

ふんふん鼻を鳴らしながら、張り切りだした。


 アイカ「よしよし! 何だかんだあったが取り敢えずOKだ! 気を取り直して出発だ! 諸君!」


 「「「「「おー!」」」」」

 経験故か、不安からなのかどうか知らんが、今回は奇跡的に彼女の突発的勝どきに全員が合わせる。


 アイカ「よし! 出発!

あ、そうだ。

どっかで捨てるからバラけないようにまとめといて」


 どさくさで押し付けられたのは米粒付きの髪束だった。


 俺「ごめん、ちょっと持ってて。 車発進させるから」


 澤部「えぇ〜 いらないんですけど」

 いつぞやはタイツだったが、今回は毛髪ときた。

ストーカーの贈り物みたいだ。

そして本当にごめん。

爬虫類嫌いな"さわっち"君。

運転するのにマジで邪魔なんだわ。

無駄にバラけるし。 散らないか気になるし。


 澤部「落ち着いたらすぐ返しますからね…」

 ぶつぶつ言いながら上手いこと結び束ねてくれるあたり申し訳なくなる。

誰とは言わんが子供みたいなアイツと、俺みたいな自分の尻を満足に拭けない大人が多分、世の中を悪くしているのだろう。

すまない。


 己の罪を懺悔しながら俺はアクセルを踏み込んだ。



 「しっかし兄ちゃん達、何だってこんな辺鄙なとこにぞろぞろ来たんかね?

海と山以外なあんもねぇぞ?」

 ガハハと笑いながらワイルドに船を繰るのは元漁師の "瀬渡 重治(セワタリ シゲハル)" 70歳だ。

少々割高な、島への往復で5000円の契約があるとはいえまぁまぁ珍妙な俺達を何ら怪訝な顔をせず船に乗せてくれる豪快オヤジである。


 俺「いやあ、自然豊かで人の少ない田舎っていうのは心のふる里です。 

原風景とでも言いますかな? 娘と社員達にも一度は触れさせてやりたくなったんですよ」

 それらしく自然に船を探して来いとは、昼飯がてらのジャンケンに負けた俺に課せられた罰ゲームだ。

より不審に思われない為に、会社のワンマン社長の俺が娘と社員を社内旅行に連れ出しているという設定にしている。


 瀬渡「いや〜、良いこと言うね兄ちゃん! そうだよ原風景。 俺も一時期、都会で会社勤めしてたけどもさ? やっぱし、ふっと帰りたくなるんよな。 鬱陶しくて仕方ねぇ筈だった潮風が恋しくなるのよ。 んで、やっぱし家業継いで漁師やってんのな! 本当馬鹿だよ! 回り道ばっかだ! 

ガハハハ!」

 

 俺「そういう回り道もその人らしさですよ。

大切なことだと思いますよ?

いやいや、しかし今回は助かりました。

急に娘があの島に行ってみたいと言い出しまして、 中々に困っていたんです。

ありがとうございます」


 瀬渡「良いんだって! 兄ちゃん! 金貰ってんだし、仕事辞めて暇なんだ。 お互い様じゃねぇの!」

 サムほどではないにしろ、結構な力でバンバン背中が叩かれる。

やはり漁師ってやつはネットの噂通り、腕っぷしも強いのかもしれない。


 川部「ねぇ〜社長〜暇〜」

 ふざけた奴がわざとらしくしなだれかかってきた。


 澤部「確かに〜」

 押し付けた髪束の報復だろうか、基本真面目な彼女も質の悪い芝居に悪ノリする。


 俺「おいおい! 君たちは! 普段触れられないこの空気を満喫しようと思わんのか?」


 瀬渡「ガハハハ! お嬢さん方若いからなぁ!

社長も大変だ!

それじゃあよ、もう見えているしあと少しだ。

あれなんかどうだ?」

 バケツに詰め込まれたスナック菓子の袋を指差す。


 瀬渡「カモメが寄ってくるかもしれねぇぞ!」


 川部「ねぇ〜社長〜良いでしょ〜

カモメ見たい〜」


 澤部「み〜た〜い〜」

大して興味ないだろうになんて嫌な奴らだ。

反応を楽しんでやがる。


 瀬渡「都会じゃ見れねぇからな! 良い体験になるかもなぁ! 1袋500円でどうよ社長?」

 そして中々、商魂逞しい海の男である。


 俺「分かったけどさ、今回だけだからね!

君たち!」

 俺の2500円が海鳥の餌に消えた。


俺はスナック菓子の袋を持ってはしゃぐ学生4人と20歳をぼんやり眺める。

何だか本当にただ遊びにきたみたいな雰囲気で、イマイチこれから命の保証無しの危険地帯に行くって気がしない。

群れる海鳥、飛び散るスナック菓子、

袋ごとかっさらわれても何故だか嬉しそうに手を振り回す20歳。

…こんな調子で良いのだろうか?

そんな、いつかした様な思考にとらわれたもんだから、

少し…ほんの少し、

自分自身に喝を入れるつもりで例のべっ甲縁メガネをかけてみた。


 「えっ」

 島が…

どす暗い。

あんな陰気だったか?

疑問が、強烈な原動力となり俺の手を半ば反射的に動かす。

メガネは外れる。

一転目の前に見えるのは、寒空に輝く太陽に照らされた情緒ある島だ。

普通なら絶対に近付かない様な歪な暗さはない。

あぁそうかやはりあそこは、確かに危ない場所なのだ。今からあそこへ行くのだ。

…冬の寒さと相まって脊椎が、体全体が震える気がする。


 「…佐藤殿」

 体の振動を抑えるのに必死な中で声がかかった。


 俺「ぁ、ああぁ。 堀部君か」


 堀部「…いかがした? 船酔いか?」


 俺「いや、違うんだ。 

ちょっと情けないことに今更、島を見たら怖くなってね…」 


 堀部「…あれは深い、無理もない」


 俺「君は、君たちは怖くないのか? 

あんな場所へ行くっていうのに」

カモメと遊ぶ位には余裕なんじゃないか?


 堀部「…恐れていないわけではない。

ただ…恐れを見せない様に躾けられただけだ」


 俺「恐いものは恐い? 

見慣れたりするものじゃないのかい?」


 堀部「あれは… ああいうものは…

何時だって恐ろしい。

…死と隣接しているのだ

…生き物ならば恐れない方がおかしい」


 本能的な恐怖ってやつなのだろうか。

彼は続ける。


 堀部「…だからか、生に触れて気が紛れた。

…他の者もそうだろう。

本来、自分の役割なのだろうな…

…かたじけない」

時代劇みたいなことを言いながら重々しい頭を垂れるその様子はさながら武士だ。

これでミニチュアをいじるのが趣味なのだから人間ってやつは分からない。


 俺「ぁ…こちらこそありがとう。

気が紛れたよ」


 堀部「…佐藤殿もやってみては?」

半分ほど減ったスナック菓子の袋が差し出される。


 俺「ありがとう。 ちょっとやってみるよ」

 学生に励まされる社会人というのも滑稽な気がしたが、繕ったところで無理なものは無理だ。

人前でだけ飾ったところで何も得られない。

ただぼんやりと、積み重ねた年齢に押されて社会に出た俺だが、それは知っている。

…いや、知らされている。


 スナック菓子を手に取って、数分も経たないうちに海鳥が群れてくる。

凶悪な勢いで指から乱暴にスナック菓子をもぎ取っていく様は普通なら脅威に感じるだけなのだろうが、生き物の力強さってやつが意識できたからだろうか…今回だけは何故か頼もしさを感じた。

片手で握り潰せそうな小さい海鳥でも、これ程の力が出せるのだから。


 アイカ「よ〜う、やっとるね "お父さん"」

 違和感バリバリだが、一応彼女なりの演技らしい。


 俺「やあアイカ、楽しめているかい?」

 俺も俺で何だか他人行儀だな。


 アイカ「楽しいぞ? お父さん。

それより何だ、何だか様子が気になったからなお父さん。

ちょっと元気出してくれ給えよ」

 言うや否や背中に無茶苦茶な衝撃がバンバンぶつかってくる。

またサムに叩かせているのだろうが、メガネ無しでいきなりは心臓に悪い。


 俺「元気出た、元気出たぞアイカ! 

もう十分出た! 

あぁ! 何だか出過ぎて痛い位だな!」

 流石にもう止めてくれ。


 アイカ「まったく…

頼りないお父さん何だからなぁ。

頼むよ? お父さん、折角の旅行何だから」


 俺「分かっているさアイカ。 大丈夫だよ。

ちょっと船酔いしただけさ」


 アイカ「なら良いのだよ!」

スクリューに舞う波しぶきが太陽に輝いて一瞬、わざとらしく振り向く彼女を鮮やかに彩る。


 アイカ「"今回もよろしくね? お父さん"」


…躍るミント色のリボンが、海をバックによく映えた。

 

 

 



 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る