第25話「狐狗狸廃病院島」5
「え〜つまりだな、諸君!
近場に宿が無いのだよ。 宿が。
隣県の市街にあるラブホテルが直近で後は無い!
そこだって移動だけで丸一日はかかる。
動物関係は察知するのも逃げるのもわりかしスピーディーなのは知っているだろう?
現場は資料のごとく島中にくまなく広がる巨大な施設だから除霊、浄霊するのは一日じゃ無理。
行き来で何日も間を空けるようなことはしたく無いのだよ、諸君。
狐狗狸の悪辣な動物霊が島外周辺に散らばってはかなわんからな。
だからすまないが海辺でキャンプする事になる。
私がやりたいのもあるからな! 一石二鳥! 以上!
終わり!」
汚い事務机を囲んで継ぎ接ぎぬいぐるみを揉みしだきながら彼女は、一部私的な都合の入った馬鹿正直な説明を済ませた。
川部「はぁ? ちゃんと調べたのかよ? チビ」
アイカ「チビ言うんじゃない! バカ! 調べたぞ、ちゃんと所在地近辺をネットで! マップから宿泊施設案内サイトまでじっくり!」
澤部「えー、シャワーとかどうしよう…」
アイカ「濡らしたタオルかなんかで拭いてれば余裕だろう? 冬だし」
澤部「はぁ…」
堀部「…食糧はどうする? 中々の量になると思うのだが」
アイカ「昨日のうちにメールで依頼主と交渉してな! 報酬から差し引きの形にはなるが、頼めば連絡船で届けて下さるそうだ! リクエストがあれば聞くぞ?」
一応、代表として話はしてみたのね。
澤部「しょうがないかなぁ…」
茶菓子の包で折り紙しながら呟く。
堀部「止むなし」
腕組みしながら低く唸る。
川部「面倒くさ、もう島ごと埋め立てたほうが早いんじゃねぇの?」
暴論を吐きながら買い溜めた駄菓子を漁る。
銘々が納得、というよりかは諦めに近いが一応話はまとまりそうだ。
アイカ「決まったようだな! 諸君!」
どやっ、とばかりに件のぬいぐるみにダイブしながら勝利宣言するのは結構だが…
武部「アイカさ〜ん。
有りましたよ? 民宿」
スマホ片手に伏兵登場。
アイカ「え? うそだぁ?」
武部「ん〜、あれなんですよ個人ブログ漁ってたら見つかりました。 今どき珍しいですよね基本webに情報出してないって。
お隣のxxxx県xxxxx村、例の島からなら船と車での移動でニ時間ぐらいらしいですよ?
コスプレ好きな女将さんが売りの変わったところなんですけど、田舎料理が美味いって書いてました」
アイカ「いや、でも連絡船は2日に一回だし」
武部「地元の引退した漁師さんが1日5000円から漁船乗り回しツアーやってますよ?
イマイチ人気無いですけど、ここらへん魚が美味しいらしいですからね。
釣り人に需要あるんです。
島への移動だけなら往復で2000円が相場って紹介が有りました」
アイカ「まぁしかしだな、いちいち移動と滞在で無駄な費用を掛けるというのも…」
武部「キャンプにだって金はかかりますよ?
それに仕事の後に風呂に入れる上に自炊の必要がない。 良くないですか?」
アイカ「でもキャンプファイヤーとかできないし」
武部「田舎の結構広めな民宿なんで、頼めば庭でやらせてもらえたりするんじゃないですか?
例の島には一般人が廃病院に近付かないように警備員が常駐している様ですし、羽目は外せないと思います。
キャンプファイヤーも危ないからダメなんじゃないですか?
それに仕事で行くわけですし、結果云々抜きにして業界内での評価も下がりそうですね」
アイカ「えぇ…」
武部「はいはい、それじゃあ多数決にしましょう。
民宿に滞在で良いと思う人」
意外にも6人全員が挙手。
1人は絶対に挙げないと思ったが。
アイカ「武部君… いや、"たけっち"」
武部「?! "たけっち"?」
アイカ「そうそう "たけっち" 良い感じの愛称だろう? 民宿の庭先でテント張ってバーベキューできると思うかね?」
武部「え〜、お金払った上で頼めばいけるんじゃないですか? わからないですけど…」
アイカ「うん、やはりね」
武部「はい?」
アイカ「素晴らしい! 上出来だよ! 優秀な部下が揃ってとても喜ばしいことだ!」
嬉しそうにぬいぐるみをギュ〜と抱くのは良いと思うが、縫い目から綿がミチミチはみ出てきていて若干スプラッタなのが残念だ。
川部「おいチビ!」
アイカ「何だバカ!
感慨深い瞬間だというのに君は!
空気が読めんな!」
川部「キャンプファイヤーでマシュマロ焼こうぜ!」
アイカ「あ、いいなそれ…
とびきりデカイやつ買ってこよう!
花火もやろう! 冬花火!」
澤部「温泉とかあるかな?」
武部「民宿にそこまで期待するなよ。
旅館じゃないんだから。
ブログにも飯が旨くて女将さんが小さくて可愛いしか書いてねぇし」
堀部「…小さい?」
武部「そこに反応するあたり流石リーダー。
相変わらずロリコン」
川部「キモいなリーダー」
澤部「うわぁ本当?…リーダー…」
アイカ「ロリ…コン…君が?」
俺「マジですか」
堀部「…違うぞ?」
その後の彼は寡黙ながら中々に頑張って単にミニチュアが趣味だから反応した旨をトツトツと語る。
…だいたい2時間かかった。
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