第23話「狐狗狸廃病院島」3
「あ、来た!」
ルーチンと化した午後のお茶会。
その緩みに緩みきった空気の中でソファに寝転び、茶飲みがてらスマホを弄っていた我らがチビ上長は、突発的に発揮させた絶大な声量でその場の何人かをむせ返らせた。
武部「ぅえッ!ほっほっ! なんすかアイカさん、いきなり大声で」
堀部「…ごフッ、ォッフッ…何事か…」
アイカ「いやぁ失敬! 仕事の依頼だよ諸君!
ようやくだよ、ようやく! 久々だなぁ!」
俺「本当、ようやくっすね。 最早お茶飲んでパイプ椅子に座りに来ているようなものでしたもん。 最近」
澤部「来る時は来るものなんですねぇ」
川部「冷やかしじゃねぇの?」
アイカ「失礼な! そもそも確かな情報登録がないと私のアドレスには到達できんのだよ
"かわっち君!"」
川部「へいへい、 "かわっち" ''かわっち"…」
堀部「して…内容は」
アイカ「まぁまぁ、そう急くな急くな!…
何なに? 現場はとある離島だそうだぞ諸君! 」
そんな興奮して大声出さなくても聞こえてますから。
…
a県j市d浜××島
この離島には、巨大な動物病院がポツンと一つ建っている。
景気が良かった頃にある企業が島を丸ごと買って建てたものなのだが、無論そんな不便過ぎる立地では人が来るわけもない。
いつの間にか景気の悪化と共に企業は倒産、病院も閉鎖。
結果、宙ぶらりんになった馬鹿でかい廃墟が島に放置されることとなった。
さてしばらく誰もが放置していたこの島だが、
昨今の法改正により再び注目が集まる。
合法化したカジノを主軸としてこの島を丸ごと、統合型リゾートにしようという構想が国とa県の間で持ち上がったのだ。
荒々しさとは無縁の穏やかで心地よいこの島を取り巻く環境は、まさしく海洋浪漫溢れるレジャー会場にうってつけ。
順調にコンセプトが立ち上がったら灯りに群れる羽虫が如く金も集まり、晴れて専門家達が島の調査に降り立ったというわけなのだが、ここで問題が起こる。
「ァア〜ッ、ナァ〜ッ、ナ〜〜ッ」
調査隊より、そろそろ有るはずだった定期連絡が途絶えてから十数時間後。
流石におかしいということで様子見に島を訪れた面々が見たのは人間にあるまじき奇声を発し、四肢を駆使して島内の自然を駆け回る専門家名士達の姿であった。
…どうも最後の報告から推察するにあの巨大な廃病院内が臭いということになり、人員を送るもやはり同じような結果に終わり原因が掴めない。
そして誰が立て始めたか呪われし廃病院の噂。
その病院を建てた企業名の珍妙なことと結びつけられ "狐狗狸(こっくり)廃病院島" などと呼ばれるようになったこの島は、いつしか島丸ごと忌避の対象となってしまった。
ケチがついたら一枚噛ませてくれというスポンサーも企業も段々と減ってきており、プロジェクトは暗礁に乗り上げつつある。
そういうわけで、廃病院内に巣食う不可思議を何とかしてほしいというのがだいたいの内容であった。
…
堀部「狐狗狸の置き土産か…」
俺「置き土産、ですか?」
アイカ「さすっちはまだ聞いたことないか…
史上初の霊による公害を発生させた企業として界隈では有名なのだよ。
島に病院を建てたという珍妙な名前の企業…
"狐狗狸コーポレーション" というのだがね」
俺「聞いたこと無いですね」
アイカ「もとはとある寺社で手作りの御守を売るような堅実な商売をするところだったらしいんだ。それが代替わりした際に新しい商売を始めたら界隈でヒットしてね…ええと…何だったかな…」
澤部「"お手軽守り神" ですよ! アイカさん。
硝子玉に動物霊を封じたやつです」
アイカ「そうそう、それそれ。 まぁ最初のは良くできた製品だったらしい。
目一杯愛情を注いで看取った動物の心霊は良い悪霊除けになるからな…でも途中からより効率よく稼げる方向に変わってしまったんだ」
俺「効率よくですか?」
アイカ「わざわざ愛情を注いで看取るのは並々ならぬ時間と手間がかかるだろう? それじゃあ大量生産大量販売とはならないじゃないか」
俺「ぇ…逆ですか? もしかして」
アイカ「そう、その通り。
冷たく殺してしまう方が効率的だ。
でも、殺したんじゃ守り神にはどうやったってなりはしないからな…
守り神とは真逆、他者を害する為の動物霊を売り出した。 それも囓った程度か、君みたいにまるでこの界隈を知らない一般人相手にだ」
俺「ははぁ、それで置き土産ですか…」
アイカ「悪霊をわざわざ増やして、よくも知らない人間にバラ撒いた結果なんてろくでもないことになるのは決まり切っているからな。 十数年経った今もそれ絡みの依頼があるほどには厄介さ」
武部「しっかし、動物病院って何ですかね?
"狐狗狸コーポレーション" が病院の経営にまで手を伸ばしていたなんて聞いたことないっすよ?」
川部「わざわざ離れ小島に建ててんなら、見られたくないもの何じゃねえの? 病院はカモフラージュで」
澤部「うわ… 悪霊の生産工場とか?」
アイカ「十分あり得るな」
堀部「物騒な…」
アイカ「狐狗狸が関わっている話はどれも良くて発狂、死人が出るのはざらだからな…」
何やら思う所があるのか、ガツンと事務机に湯呑を置くとソファの上に立って演説を始めた。
行儀悪いが、まぁ今回だけはスルーするとしよう。
革張りにタイツが滑ってすっ転ばないかすごく心配だ。
アイカ「諸君! 今回の依頼は我ら心霊に携わる者達の名誉回復であると共に非常に危険なものである! 自信のない者はいるか?」
…まぁ、誰も名乗りゃしないわな。
ちなみに俺は、初めっから今日まで自信なんて一つも無いから今更な話だ。
折角張り切っているのに水を挿すこともないだろう。
アイカ「よろしい! それでは張り切って行こう! 諸君!!」
何やら小粒のおにぎりみたいな拳を上げているが
あれか、エイエイオーみたいな感じを期待しているのだろうか?
でもまぁ…
堀部「…」
川部「…」
武部「…」
澤部「えっ…え〜と…」
高校生にそういうアドリブを求めるのは些か急に過ぎる。
仕方ないので取り敢えず口火を切ろう。
「べっ、別にアンタの為じゃないんだからね」
みたいな心境になって我ながらクソ気持ち悪いが。
俺「エイ! エイ! オー!」
顔が少し熱い。
堀部「…む」
川部「は?…」
武部「あ~と…」
澤部「え〜…」
俺「エイ! エイ! オー!」
顔がクソ熱い。
堀部「うむ…エイエイオー」
川部「あ~はいはい。 えいえいお〜」
武部「エイ! エイ! オー!」
澤部「あ、そういう… エイ、エイ、オー!」
アイカ「エイ! エイ! オー!」
…
止め時がわからずリピートしていたらまた、例のお姉さんから怒鳴り込まれたので本日はお開きとなった。
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