第17話「骸骨学舎」11

 

 「さて、残り1時間とちょっとかな?」

若干オーバーサイズの帽子をポンポン叩きながらアイカがぼやく。


 「ヘイ! ベイベー! 今回もあと1時間。 覚悟はできてるかぁ〜い皆の衆! 僕ちん前回はお腹やられちゃったのよ、マジ勘弁! そんなわけで次はあの名曲、"oops"で『腹はらハラハラ切り腹切り刻む』だよぉ〜カモン!」

 無駄にやかましい校内放送は何度目かの重低音を鳴らす。


 「結局、元凶がどこに潜んでいるか分かりませんね」

どうも元オカルト部の安岡が臭いという見当はついたのだが…


 「さすっち君、君が観た中で一番楽しかったのは何時だね?」


 「えぇ? 彼、木道とかいう男子生徒とつるんでいた時ですかね?」

そうそう、無駄に胸がときめいた。

一瞬、自分の嗜好を疑うほどの鼓動。

チャネリングの、あの没入感は精神衛生上よろしくない。 

自分自身を見失いそうになる。


 「うぅんそうか、具体的なシチュエーションを頼む。 チャネリングに表れるほどに強烈な体験の中でも一際、輝いているヤツを」

いきなり言われてもなあ…


 「夕暮れの帰り道、並んで話していた時」

そうそう、綺麗な夕暮れと彼の声が胸に沁みた…

感じがした。


 「他!」

何とも無粋に次を催促する。


 「オカルト部の部室で、二人きりでお茶してた時」

そうそう、部長達まだ来ませんねなんて言いながら勝手にティーセット出して、彼がイタズラっぽく笑って、心が溶けながら弾むような…

感じがした。


 「他!」

綺麗な思い出なのだ。

他人事なれど若干、腹が立つ。


 「放課後、二人して某チェーン店でハンバーガーを食べた時」

そうそう、意外と先輩食べるんですね、なんてからかわれたからムキになって、後輩のトレーのポテトを食べてじゃれ合って、思ったより顔が近づいたから頭が波打って、胸が熱くなった…

感じがした。


 「他! 本当に、一番強烈なのを頼むよ! いい歳した君が、なんか甘酸っぱい表情になるのは気持ちが悪い。 早く終わらせよう」

 本当、とことん失礼なやつだ。


 「あぁ〜、それじゃああれです! あれ! 二人でカラオケ行ってキスしました。 あの瞬間が一番でしたよ」

 そうあの瞬間は、後はどうあれあの瞬間だけは、文句なく一番輝いていたと思う。


 「さすっち君、分かった、分かったからもう良い」

 よっぽど甘酸っぱい思い出に浸る俺の顔が気持ち悪いのか、やや焦燥をにじませながらアイカが手をバタバタ振る。

…今度、鏡で見てみよう。


 「薄暗い場所だ、薄暗くてマイクがある…

そんな場所ならあるじゃないか!」

 興奮気味にサムの頭をペチペチ叩きながら、彼女は拳を振り上げる。


 「行くぞ! 体育館だ!」

 

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